大地丙太郎文庫

<< くのいちせぶん | main | くのいちせぶん 2話 01 >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| スポンサードリンク | - | | - | - |
くのいちせぶん 1話 
01『くのいちせぶん』 
第一話 「俺の妹がくノ一のわけがない」
その1

 俺…。
 俺の名前は、粕太郎。
 大萬粕太郎。
 ちょっと古風な名前だろ?
 俺もそう思う…。
 なんかアニメの監督にこんな字面のヤツがいる気がする…。
 58くらいのおっさんで…。

 でも俺、高校生ですから〜。
 市立大萬高校の二年ですから〜。
 せべにてぃーん(17)ですから〜。
 親父が「粕の様な立派な人間になってほしい」とつけた名前だと、子供の頃に聞いたが、良く意味がわからず、大人になったらわかるのだろうと漠然と思いつつこの歳まで来たけど、いまだにわからんままだ。
 むしろ「カスのようなニンゲン」になってもいいのかと思ったりもする。
 成績…? ほどほど…。
 スポーツ? ほどほど…。
 趣味? ま、特にはないよ。
 凝り固まった趣味みたいなのは持たない主義なの。
 やなんだ、ひとつのジャンルに詳し過ぎるやつ。
 もっとフリーな部分を多くした方が世の中を楽しめるってもんだ。
 その方がモテる時代なんだよ今は。
 ラノベとか見るとだいたいそうだろ?
 カオもほどぼどだし、スタイルもほどほどいいし…ほどほどはモテるよ。
 え?
 ぐ、具体的なエピソードはまだこれからだけどさ。
 そういうの聞いて来ないでよ。
 すっごい眠いんだから…。

 そうだよ思い出した。
 俺は今、寝てるんですけど〜。
 むにゃ…

 すっごい眠いの…
 …
 だってさ…
 …
 だって…
 …
 夜中までおれ…
 …
 いや、朝方までだな…
 …
 ずっと、アレ書いてたんだもん…
 …
 にや…
 …
 にやにやにや…
 …
 寝てるけどにやけちゃう俺…^ ^
 …
 …アレって何かって?
 …
 アレだよアレ_
 …
 誰でもいちどは書くじゃーん
 …
 ときめきのアレ…^ ^

 え?わかんない?

 だからさあ〜…(#^.^#)
 おれいま、も〜れつにコイをして(ドンドンドン)
 もほれつにね…コヒを(ドンドンドン)
 あ…?

(ドンドンドン)

 …なんかうっさいんですけどお〜。

「…ちゃんおきろ」

 誰がなんか言ってるんですけど〜。

「おにぃ〜」

(ドンドンドン)

「お〜き〜ろぉ〜」

(ドンドドドンドン すッドンドン)

 なに、しょおわのリズムでドアたたいてんだよ〜。
 …
 ときだ…。
 …
 いもうとの十季だ…。
 …
 うるせえなあ〜。
 …
 うる…せ…
 …
 ん?
 …
 やんだ…?
 諦めた?
 んにしし^ ^
 じゃ…寝るよ…
 むにゃむにゃ…
 藍さん…
「おにいちゃんて、妹モノが好きなんだ…」
 なぬっ_
 がばっ!
 飛び起きる俺っ!
 妹がっ!
 十季がっ!
 部屋の中にいるっ!
 目の前にいるっ!
 何故いるっ?
 ドアは鍵かけてあったのに何故いる?
 忍者かっ?
 そんでっ!
 そしてっ!
 十季の手には3冊の「妹モノ」がっ!
 …
 ぎゃーっっ!!

☆ 第一話「俺の妹がくノ一のわけがない」


 妹・十季の手には隠しておいた…はずの「妹モノ」のエロ同人誌が3冊っ!
 ?(゚_゚)ぎゃーっ!!
「『妹ぺろぺろ』『妹DEもっこり』『妹まみれ』。うっわあ〜っ、おにいちゃん変態だね、ゲロキモ〜」
「違うんだーっ!」
 全力で十季に手を伸ばし飛びかかる俺。
 ヒョイっ。
 十季がよけたので俺は空をつかんでよろける。
 だがすかさずくるりとカラダを翻し、再び突進。
 違うんだっ!
 そ、それは俺のじゃないっ!
 クラスメイトのクソバカ野郎、徳永英康が無理矢理俺に「貸してやるよお〜、いいぜえ妹モノむふーん」と言って押し付けて来たやつで
決して俺が妹趣味ってわけじゃ…な…。
 ヒョイ。
 ヒョイ。
 そ、それにしても、なんでお前はこんなに 動きが素早いんだっ!
 全然ヒョイ取り戻せなヒョイじゃねえかヒョイ。
 忍者かっ!
「俺んじゃないもんっ!俺んじゃないもんっあーんあーん・゜・(ノ_`)・゜・。」
 気がついたらものすごくキモく泣きながら妹を追いかけている。
 今は冷静じゃないけど、冷静な俺が見たら、 もうこれは変態だやっぱり。野々なんとか地方議員さんだ。
 妹趣味なのはクソバカ英康で俺じゃないも〜ん。あーんあーん。。・゜・(ノ_`)・゜・。
 だって泣きたいよお〜。
 リアルの妹に「妹モノエロ」見られたよお〜あーんあーん。
 返せえーっ!
 ヒョイ。
「ん?」
 かわしまくる十季の目が、鋭く俺の机の引き出しの下から二番めに向けられる。
 なぬっ? まさかっ?
 するっと素早い動きで俺の目の前に屈んだ十季が、下から二番めの引き出しを引き出す。
 さっ。
 ふっ…。
 見えたのは、下らん学校からのプリントの束。
 にゅふふ(-_^)
 …と、ほくそ笑むぞ俺。
 十季の手にある3冊のエロい妹モノは確かに割と見つけやすい引き出しの一番下の引き出しに入れてあったようん。
 だが、一番大事にしているモノはそんな単純なところへなど入れておくモノか。
 地味な下から二番めさ。
 しかも…。
 しかもふふふなのだ…。
 残念だったな十季よ。
 所詮は世間知らずの中学二年生よ。
 よしんば下から二番めを見破られたとしても、そう簡単には見つかるまいて4冊め。
 それにはな、それ相応の工夫というものが施されて…ん?
 なぬ…?
 十季の目が止まったのはほんの一瞬だった。
 次の瞬間にはスルッと手を引き出しの上の部分を探っていた。
 さしゅっ。
 十季が手を引いた時にはすでに4冊めの「妹モノ」がっ!
 ぐわーっ!
 忍者かあーっ!
 何故だっ!?
 これぞ忍法デスノート隠しだったのにっ!
 「デスノート」は見たことはないが、見たことある徳永英康に教えてもらった隠し方だったのにっ!
 忍者かっ
 俺の妹は忍者かっ!
「げえ〜げろげろ〜なにこのタイトル〜。『おにいちゃん大好きっ_』気持ち悪ーい」
 !!!
 ばかやろー>_<
 ばかやろーばかやろーばかやろーっ!
 エロ同人誌のタイトルとしてはまったく捻りのないどうでもいい在り来たりのタイトル。
 だからこそっ!
 だからこそ、いっちばん恥ずかしい〜っ!
 十季のやつ、チョーにやにや笑ってる。
 だがっ!
 だがなっ!
 お前にはわからないだろうがな。
 実はこの『おにいちゃん大好き_』はな…

 ただのエロじゃないんだ。
 いや、エロもひと際なのだがな…それを越える情感があるのだ。
 これはな…この『おにいちゃん大好き_』はな、本気で…本気で妹っていいなあ〜と思ってしまうのだ。
 名作なのだ。
 泣けるのだ。
 妹…切ないのだ、妹との恋というのはな…とっても切なくて…。
 この作者のけつべん子さんは、只者じゃないよ、うん。
 !
 ?
 おい…。
 なんだそのリアルの妹の俺を見るさげすんだ目は。
 なんだその変態を見るような目は
「だって変態でしょ」
 は?
 なんでなんにも言ってないのに答えた?
 ココロを読んだのかっ!?
 忍者かっ?
 もお〜返せーっ!
 またもや手を伸ばす。
 ヒョイっヒョイっ。
「おにいちゃんが〜妹モノ好きの変態だっていうの、美山さんに言っちゃおうかなあ〜」
「あ?」
「美山藍さん」
 ちょーーーーーっと待てっ!
 何故その名前をっ!
 み、美山 藍…さん。
 なんでコイツの口から藍さんの名前が出る?
 しかもなんでフルネームで知ってる?オレの恋こがれているクラスメートの美山藍さんの名前がぁ〜〜〜???
「『拝啓、本日はお日柄もよく、藍様にはますますご健勝のこととの賜ります』…なにこれ、だっさ〜」
 ぎゃあーーーー!!
 何読んでるんだよ!
 十季が手にしているのは4冊の「妹モノ」の他に、おれが朝までかかって書き上げた藍さんへのお手紙っ!
 しまったっ!
 封をする前に体力が持たず机の上に出しっぱなしのまま寝ちまったんだっ!
 部屋に鍵がかかっているんだからその辺は まったく安全だと思っていたのだっ!
 そうだよ。十季のやつ、なんで入って来れたんだっ!
 忍者かっ!
「『さて、この度私、大萬粕太郎、美山藍さまに是非ともお伝えいたしたき儀が御座います。』きゃははっ、時代劇かっ」
「返せえーってのお〜(泣)」
 伸ばした手に力が入らない…。
 起きぬけの瞬発力限界~_~;
 エロ本4冊晒された上に、藍さんへの手紙まで読まれてしもた〜、妹に…
「はい」
「え?」
 十季がにっこり笑いながら「妹モノ」4冊と藍さんの手紙を差し出し、俺の手に持たせた。
「目、覚めた?ご飯出来てるから早く来なさいってお母さんが」
 は?
 ニッと俺にいたずらな笑みを投げてスルッとドアを出て行く十季。
 ぱたん。
「あ、お、おい…」
 思わずドアに駆け寄り十季を追った。
「あ、あれ?」
 ガチャ…ガチャガチャ…。
「あれ? 鍵がかかってる…」
 え?
 外からは掛けられない筈なのに…。
 ポカンとドアの鍵を見る俺。
「…忍者か…」
 ペタペタと階段を降りる。
 起きるには起きたけどさ、やな目覚めになったわ。
 リアル妹に二次元妹モノを晒された無念さよ。
 しかも考察してる間に、案外本気で妹モノが趣味だった自分も知る。
 俺って変態なんだなあ〜。
 読者のみなさんで僕と同じ変態な方ごいたら励ましのツイート下さい。
 おまけに藍さんへのラビリン_レターまで晒されたあ〜>_<
 こっぱずかしいっ!
 こっぱずかしくはある…けど、むふふ…
 いいじゃないか
 さっき十季が読み上げたラビリン_レターの文面。さすが朝までかかって練り上げただけはある。
 もう、藍さんのハートは鷲掴み間違いない。
 ドン
 あいてっ!
 いろんなコト考えながら歩いてたらダイニングのドア開けるの忘れてぶつかっちゃったよ(^^;;
 藍さんのことは、またもう少しあとにじっくり語るね。
 50か60くらいで^ ^
「おはよ」
 キッチンにはかあさんがいて、ダイニングテーブルにはとうさんと十季。
 十季がいるので多少バツが悪く、少し機嫌悪そうに挨拶…。
 だが、その十季は俺には目もくれず、しれっとトーストに噛り付いている。
「起きた?おはよう」
 かあさんが、にこやかに、むしろノー天気にハムエッグの皿をテーブルに起きながら、 のんびりという。
 この人はいつもこんな感じ。
 とうさんは無言でお茶をすすりながら新聞に見入っている。
 とうさんはごくごく平凡な商社勤め。
「粕ちゃん、志望大学、もう提出したの?」
 かあさんが、やっぱり呑気に聞く。
「いや、まだ…」
「考えてるんじゃないでしょうね〜」
「あ、いや、まあ、だいたいは決めてるんだけど…」
「普通でいいんだぞ、普通で」
 と、口を挟んで来たのはとうさんだ。
「考えることはない。特に有名な大学の必要もない。なんの特徴もなくていいんだ。あんまり聞いたことのない大学でいいんだ」
「あ、うん…」
 とうさんはいつもこのことを言う。
「何かを目指して一心不乱に勉強など
するんじゃないぞ。手に職なんか持つのは以ての外だ。潰しが効かなくなるからな。特にずば抜けた得意など持ってはいかんぞ。目立たず控えめにごくごく平凡に生きる、これが一番なんだからな。何事もほどほど、ほどほどだからな」
「わかってる」
 俺がすべてほどほどを良しとしてるのはこの
 とうさんの教えが影響しているんだねと、みんなわかってくれたでしょ?
「間違っても声優になろうなんて思ったりするんじゃないぞ。密かにEテレの声優スタジアムに応募なんてしてないだろうな」
「し、してないよっ!」
 なんだよ、平々凡々に生きてるとうさんの口から声優なんて言葉が出
るとは思わなかったよ、ああびっくりした。
「私、応募したけど」
 ボソリと十季が言う。
「なっ!?」
 俺、とうさん、かあさんが一斉に十季を見るっ!
「マジか十季っ」
 と、俺。
「一次予選も通過して来月決勝でNHK行く」
 ええーっ!?
 マジマジかっ?
 まどかマジカっ?
「すごいじゃない十季ちゃん」
 と、かあさん。
「じゃ、野沢雅子さんに審査してもらえるのか?」
 と、とうさん。野沢雅子とか知ってるんだっ。
「まだ審査員が野沢雅子さんかはわからないけど、だったらいいな」
「優勝したら声優体験とかできるんでしょ、あの番組。すごいじゃない」
「とうさんは応援するぞ。夢を持つことは素晴らしいことだ、がんばれよ十季」

 おーーーーい。
 どーゆーこと?
 どうして俺と十季でそんなに見解が違うの???

(つづく)

 目玉焼きに茄子の漬物添え、豚汁とトースト、日本茶という、わが大萬家ではごく当たり前ながら、どうもテレビ雑誌なんかで入る情報からみるとアンバランスな朝食を終えて、平和に家を出る。

 朝からいろいろあったはあったが平和は平和だ。
 俺の通う大萬高校は歩いて行ける。

 この町、大萬市は東京の北、芋玉県にある。  新宿からは30分もあれば来れる。新幹線も止まるし、そごう、高島屋、ルミネ、ビッグカメラ、ドン・キホーテ、アニメイトもある芋玉県一の都会だ。
 俺の家は、駅から…かあさん流昭和ギャグで説明すると「走って転んで20分」の閑静な住宅地。
 あ、気がついた人もいるかな?俺の苗字「大萬」と市の名前「大萬市」が一緒なこと。ま、これは「川崎市」に住んでる「川崎さん」だと思ってもらっていい。でも実は俺の方は「だいまん」と読む。市の方は「おおまん市」なのだ。これはそうだなあ〜、
「白石(しろいし)市」に住む「白石(しらいし)」さんだと思ってもらえばいいかな?
 と、どうでもいい解説を心の中で呟きながら、俺は少々心臓が高鳴って来た。
 それは…。
 俺の制服のブレザーのポケットには、ふふ、あの、あの、ラビリン_レターがふわさ〜と入っているのだ。
 俺は、これを今日、美山藍さんに渡すのだ。
 教室でね。
 美山藍さんの席はね、なんと俺の右隣なんだよ。
 今のクラスになった時にさ、うわあ〜可愛い子いるなあ〜なんて思ってたわけよ。それが美山藍さんなわけなんだけどね。そしたらさ、席順のくじ引きで藍さんが俺の隣になったわけよ。
 こりゃ運命でしょ。
 藍さん、隣の席に来た時、俺を見てにっこり笑って、
「美山です。よろしくお願いします」って、言ったんだよお〜。うへ〜思い出したらまたキューンとなって来た〜。かーわいかったなあ〜。
 あの笑顔はさ、少なからず俺に好意を持ってるよね、うん、間違いナッシング。
 俺は、この手紙、よくある下駄箱に入れておくなんてことはしないよ。だってすぐ隣にいるんだもん。手渡しするんだ。なんかこう、世間話なんかしててさ…「ダウ平均株価の上昇が激しいですね」とか…「年金の受け取りを70歳からに申告すると年額が110万円になるらしいですよ」とかね…
 で、さりげなくついで感たっぷりに、
「あ、これ、良かったら…」
 なんて言って手紙をすっとね、彼女の机の上に差し出すのさ…。藍さんキョトンとするね、最初は。でもすぐに察するよ、アタマのいい人だから。
「あ、え…?」
 なんて、戸惑って、頬をフッと桃色に染めちゃったりしてね、
 そういう人ですよ藍さんは。奥ゆかしいんだ。控えめなんだ。そこがなんとも愛らしい。
 手紙の最後には「本日放課後、大萬公園の竪穴式住居の前で待っておりまする」と締めくくってあるんだ。
 くふふ〜、藍さんのはにかむ顔が目に浮かぶなあ〜。
 その時
「なにニヤけてるのおにいちゃん_」
 いきなり背後から十季が襲ってきた。ってか俺に腕組みをして来やがった。
「妹モノのエロ漫画思い出してたの?」
「ば、ばかやろうっ!」
 とか言いながら、なんだこの腕がぴったりと、いや、腕だけじゃなくて、ほんのり乳…あ、いや、なんだどうしたっ!リアル妹なんかにドッキリすな俺っ!
「ちょっと、お前なにやってるんだよ」
「え、だってさっきの漫画にこういうのあったよ、妹とおにいちゃんが腕組んで歩いてるの、『おにいちゃん大好きっ_』で」
 ある!確かにある!いいシーンなんだ…ってそれはいいんだよもお〜!
「こうゆうので萌えるの?」
 腕を組んだまま見上げながら、いたずらっぽい目で十季が言う。
 うっ!
 正直いま萌えたっ(>_<)
 無念っ!
「ばかやろーっ!」
 焦って腕を振り払う。
 振り…あれ?払えない…。
 ふんふん。
 振り払うが離れない。
 十季、お前は忍者か?
「おんや、朝からお熱いね粕タロー」
 としゃがれた下品な声を掛けて来たのはスナックどろんのママだ。
 朝のママはとことんだらしない。
 営業中のママはもちろん見たコトはないが、営業が終わって片付けも済ませたところなんだろう。いつも通学時刻に店の前に出てる。
 化粧もすっかり落ちてパーマ髪をバッサバサに無造作に後ろでひっつめて、くわえ煙草。それにしてもその胸がずろーんと開いたシャツはなに?オッパイ見えてんですけど。ブラもしてないんですけど。はあ、全部丸見えだけどさすがにそのオッパイは萌えねえす。
高校生の俺がなんでスナックの
 ママなんか知ってるかというと、何度か酔っ払って手がつけられなくったとうさんをママが肩を貸す形で家まで連れ帰って来たことがあったからだ。
 ママの営業メイクはだいぶ崩れてはいたけどこの時に垣間見てはいる。
 かあさんはその度に不機嫌。かなりこのママを嫌っているようだ…が、そりゃ
 そうだ。
「妹ですよ妹っ!」
 焦った俺が言う。
「お前の妹がそんなに可愛いわけがねえだろっ」
 どっかで聞いたようなフレーズを浴びせて来るママであった。
 可愛い?
 妹が?
 思わず俺は改めて十季を見てしまった。
 ん…。
 か、可愛いな…。
 (#・_・;#)
 あ、あれ?

「おにいちゃん、美山藍さんだよ」
 十季はそんな俺の動揺など気にせず、前方を見ながら突然言った。
 ドキンっ!
 我に帰る俺。
 妹から前方に目を向け直す俺。
 みっ!
 美山藍さんっ!
 美山藍さんが、ちょうど櫛引町の方からやって来ていて、俺が歩く大成町三丁目からの道

と、合流する形で歩いて来ていた。
 妹のコトはここで吹っ飛び、俺の脳内は美山藍さんで満ち満ちた。
 多分相当に口をあんぐりこんと開けていただろうなあ〜(後日回想)。
 相当に口角が上がりまくっていただろうなあ〜(後日回想)
 浮かれた時のアフロ田中みたいに。
「おにいちゃん、がんばれ」
 そう言って十季はするりと俺の腕の中からすり抜けると、素早くくるんと背を向け、後ろ足で俺の背中をドンとキックして大萬中学方面に駆け去って行った。
 俺はそんな十季を見送るコトもなく蹴られた拍子で前につんのめる。
「とととっとっ」
 止まったところが、
 美山藍さんの50センチ手前。
 まるで十季のやつ、計算して蹴ったかのごとくであった。
 忍者かっ。
「あ…」
 50センチ先の美山藍さんが、俺に気づいて控えめなリアクションをした。
「あ…」
 咄嗟に俺もリアクションが出来なくて控えめになってしまった。
「おはようございます」
 美山藍さんが控えめに会釈した。
 そうだ、だいたいこの辺で美山藍さんのことを語ると前に書いたよな。

 美山藍さんは…。

 美山藍さんは…。

 か、髪はその、さらっと短くもなく長くもなくほどほどで…(ほどほど好き)
 そこに来て丸過ぎず細過ぎずぼどほどで…(ほどほど好き)

目もぱっちりし過ぎず小さくなさ過ぎずほどほどで…
 首筋が…
 え?
 わかりにくい?
 あ、じゃもう、こうです。

http://www.garitto.com/product/22462020

(勝手にリンクしていいのか?)

(つづく)

 美山藍さん。
 うーん、笑顔がキュート。
 美山藍さんは、俺に控えめに「おはよう」と言った。
 この笑顔である。
 美山さんは、授業中、一日になんどもこの筆禍笑めない笑顔を俺に向ける。
 俺のことを・・・俺のことを・・・憎からず思っているに違いないのだ。
 ふふふふふ。
 藍さん笑顔を見ているうちに溜まらなくなってしまった俺は、もうこの場で手紙を渡すことに致し候。
「藍さん」「はい?」「これを」「え? なんですか?」
 屈託のない笑顔だ。
 藍さんが、手紙に手を差し伸べたとき、その手が届くその寸前のことであった。
 突然、背後からの恐ろしく強い力で俺の首が締められた。
「うぐっ」
 後ろに引っ張られる形になった俺。
 それと同時に手紙は俺の手を離れていた。
 藍さんが_んでいたのだ。
 だが今の問題は、突如俺が襲われたコトである。
 な、何ヤツっ!?
「ねねねね、あれ、お前のいもーとっ__」
 と、徳永英康だった。
 あの妹モノ好きの。
 俺に無理矢理自分の趣味の妹モノのアレを押し付けた変態徳永英康だった。
 英康のバカは絡ませた首を強引にくるんとぶん回し、俺を180度後ろを向かせやがった。
 イデーっ!
 今さっき別れた十季の、大萬中学に向かう後ろ姿がそこにあった。
「そ、そうだけど…」
 しまった、英康には俺に妹がいるコトなど言っていなかったのだ。
 言えるかこの変態に。
 そんなん知られたら妹に何されるかわかったもんじゃないってぎゃー今ばれてもたっ!
 しかし、それより俺は手紙を受け取った藍さんの反応が気になる。
 ぶん回された首をガッツでクイとねじって藍さんを振り向く。
 藍さん・・・・。
 読んでるぅ〜〜〜っ!
 封を開けて読んでるぅ〜〜〜〜っ!
 読んでる表情は〜〜〜〜。
 無表情〜〜〜っ!
 これはどういうことだ?これはどういうことだ?これはどういうことだ?
 そか、人間そんなすぐに反応が出るワケない。
 そのうち、藍さんはポッとはにかんで顔を赤らめて、ちらと俺を見るぞ。
 ・・・・。
 見ない〜〜〜っ!
 ちっとも見ないけど〜〜〜〜。
 そして、そのまま・・・背を向けて・・・?
 あれ?
 手紙は・・・降ろした手に持ったまま・・・? 広げて持ったまま・・・?去って行きますよ?
 な・・・
 なかった・・・
 反応がなかった・・・
 なぜだ・・・と脳内を巡らせる俺に、さっきからなんかぶつぶつ言ってるんですけどキムチ納豆臭い徳永英康が・・・。
「しょうおかいしろよおまえのいもうとしょうかいしろよおまえのいもうとしょうかいしろよおまえのいもうと・・・・」
 するかーーーーっ!!!
 あっという間の放課後。
 俺の足は大萬公園の一角にある竪穴式住居に向かっている。
 今朝の鬱陶しい英康のコトなど飛ばすよ。なんか一日俺にすり寄って来てたけどスルーするよ。
 しょうかいしろいもうとしょうかいしろいもうとと一日言ってたけど無視したよ。
 英康のコトなどどーでもいい。
 藍さんのコトの方が…あ、その藍さんなんだけど…。
 一日無表情であった。
 机隣の藍さんは一日俺を見なかった。
 いつも、…それこそ5分置きに俺をちら見していた藍さんが今日は一度も…。
 これは何を意味するのか?
 藍さんが俺を憎からず思っているコトは間違いないのだ。
 一日何度も俺のコトをちら、ちらと見るの だから。(昨日までは…)
 俺のコトが好きなのだ。
 違いないのだ。
 違うのか?
 違うはずはない。
 違わないといいが。
 いや、違わないに違いないっ!
 シャイなんだ。
 控えめだからシャイなんだよ藍さんは。
 シャイニングガールなんだよ。輝けるシャイニングガールなんだ美山藍さんは。
 だから、この俺がリードしてあげないといけないと思うのだ。
 そういう方向に持って行かなくてはいけないのだ、この大萬粕太郎がっ!
 びっくりしたのだ藍さんは。
 そうだ。
 俺にラビリンレターもらってたまげたんだ。
 生まれてはじめての体験だったに違いないのだ。俺もそうなのだから間違いないのだ。
 嬉しくて固まっちまってるんだ。
 そこに持って来て俺のうっとりするような愛の言葉の大洪水なのだから。
 ん?
 でもなに書いたんだっけな?
 なんか朦朧として書いたから忘れちまったぞ。
 ん?一晩かけてあれやらこれやらうっとりワードを思い浮かべた挙句、もしかしたら本文を書いてなかったりして…という気も少しよぎったがいやもう今更どうでもいい。
 会ってから直接伝えればいいじゃないか。
 俺のラビリンレターには、放課後この竪穴式住居に来てほしいと書いたのだ。
 そこで俺は正式に気持ちをぶつけるのだ。
 ありったけの言葉でな。
 その言葉を藍さんは待っているのだから。
 待ってるはずだ。
 待ってないか?
 待っているだろ。
 待っているに決まって待ってるっ!
 はい、よろしくお願いします…とはにかみながら藍さんは言うよ。
 こんな私で良いのでしょうかなんてはにかみながら言うよ。
 言うんだよ。
 言わないか?
 言うと思うがな。
 言うっ!
 言うううう〜*?(^o^)/*
 そして、俺と藍さんは人も羨むラブラブカップルとなり、わが大萬高校略して、…いや略してはいけないのだ我が校は、その大萬高校一のベストカップルとなるのだ。
 おめでとう俺っ!
 と、俺が近い将来の勝利を確信している時、 この大萬公園から北東30km離れたある場所では、この物語と、なによりこの俺の運命が、大きく転換することになる重大な事態が起こっていたのであるが、もちろんこの俺はそのようなことは知る由もなかったのである。

 藍さぁ〜ん

「なんだ貴様ぁ〜、しまらねえ顔して、あ?藍さんて誰だ?」
 思い切りラブ妄想を繰り広げ悦に入っていた俺に、突然ガサツな声が浴びせられた。
「え?」
 見るとジャージ姿のわが大萬高校体育女子教師、群馬葵がその場走りぶみをしていた。大萬公園をランニング中であったようだ。
 てかすんげえ上下動してるっすよ先生…。ゆっさゆっさしてるっすよ先生。乳がっ_
 この群馬先生は体育の時間のみの教師であるのだが、毎時間このゆっさゆっさを拝見するのが何気に楽しみではある。
 性格はガサツだが、ビジュアルはしごくいい^ ^
 体育の授業は男女分かれてになるのだが、男子体育の担当がよりによって巨乳教師でありますのですよふひふひ。体は結構すらっと細いのにこのド巨乳。たまりません。
 しかし微乳好みの英康なんかはつまらなそうにしている。
「ちっ、くっだらねえな」と大沢木大鉄のような台詞を吐いている。
「竪穴式住居の前かなんかで告るのか?ん? がっはっはっ、せえぜえがんばんな小僧っ」
 ぼむっ!っと意味もなく俺の腹に拳を見舞いながら群馬先生が言う。
「ごぶあっ、何故それをっ!」
 だが、俺の言葉もロクに聞かないまま、巨乳教師は走り去っていった。
 なんなんだ。
 まるで前回、書き忘れたかのように突然登場した群馬葵…いきなりぼむって…。

(つづく)

 俺が大萬公園、略して…いや、略してはいけない大萬公園の竪穴式住居に、ラブ妄想を繰り広げながら向かいつつ群馬葵に「ぼむっ」てやられてたその頃…。
 この大萬市から北に10里離れたところに萬粕町という城下町があった。
とは言っても俺はちっとも知らないのだが。
 同じ芋玉県内であるというのにぜーんぜん知らないのだ。
 だって、高校生の行動範囲なんてたかが知れている。
 俺はほとんど大萬市を出たことはないのだ。
せいぜい隣町の上尾のプールにチャリで行くくらいである。
 そして、その10里離れた…ん?なんで俺、そんなおかしな単位使ってる? 時代劇じゃあるまいし…。
 まとにかく、萬粕市には城がある。
 萬粕城。
 しかしこれも俺は知らない。
 知らない場面の解説って難しい。
 そうだ、さりげなく「俺」と言う一人称目線から離れていくことにしよう。
 しかしまあ、この現代に城って…。しかもここの城ってどうも観光とか出来るそんな城ではなさそうだ。
 そこはマジ、現役の城。そして、そこには萬粕家という武家の血を引く一族が代々住み着いていた。もう、すでに俺はちんぷんかんぷん過ぎていたたまれない気分だ。
 その萬粕城の一室に敷かれた床で、19代当主・萬粕机衛門(つくえもん・89)が今しも、大往生を迎えようとしていた。
 傍らには20代当主となるべく男、萬粕少吾、齢14才が控えていた。
 89歳の萬粕机衛門75の時の子供と言うことになるけど、この際そんな計算はどうでもいい。
 もうすぐ死に行くはずの萬粕机衛門の寝顔を、少吾は静かに見下ろしていた。
 少吾の背後のつい立ての影に、気配を殺して控える者がいた。
 忍び…。
 少吾の口から静かな呟きが漏れた。その影に向けて。
「粕太郎兄…いや、太吾を…」
 少し間をため、少吾は続けた。
「消せ」
 その言葉をまるで待っていたかのように、影は短く「は」と答えた。小さな風の音が立った。少吾は影が任務に向かって即座に動きはじめたことを悟った。
 再び静寂に戻った。
 少吾はその後もそこに座り続けた。
 机衛門の息が止まるのを待っているかのようだった。

 ややして、少吾の頭上、天井のうらからも、小さな風の音が立ったのであるが、これは少吾にも気づかぬほどであった。

 物語は少しだけ動き始めたようである。

 俺がおっぱいたてゆれ先生、群馬葵に会う少し前、北に10里の萬粕城の一画から一匹の伝書鳩、デバトン(決してコ○トンのパクリではない)が南の方角、つまり大萬市に向かって飛び立った…らしい。
 デバトンを放ったのは、少吾の部屋の天井裏に忍んでいた秩父くノ一三峰衆のひとり青葉といったが、とにかくこの時の俺は何も知らない。
 そしてもう一羽、追うように黒鳩、クロバトン(決してコ○トンのパクリではない)も飛び立った…らしい。こちらの方は秩父忍者武甲衆と呼ばれるなんだかそんなのの手のものが放ったらしいのだが、どっちにしても俺はまったく知らないことであった。
 俺は大萬公園の竪穴式住居前に着いた。
藍さんはまだのようだ。
 竪穴式住居前。
 実にロマンチックなプレイスだ。
 周囲は木々で囲まれていて爽やかな風が葉を揺らしさやさやと心地よい音を奏でていた。
 隣には県立の弓道場がある。
 俺はまったく興味がないが、何処かの学校の弓道部かなんかだろうか?しゅ、しゅとたまに小さな音で矢を射っていた。
 藍さんは…まだ来ないなあ〜。
 俺は目の前にある竪穴式住居をじっと見ていた。
 竪穴式住居…。可愛い家だなあ〜。少し半地下になっていて、可愛い扉がついている。
 将来、藍さんと家庭を持ったら、こんな可愛らしい家を建てよう。
 いや、いっそこの竪穴式住居に住めないか。この家は建売はしてないのか?
 俺が仕事を終えて帰って来る。
 この小さな玄関の戸を開ける。
 「ただいま、藍_」なんて言っちゃう。そしたら藍さんは家の真ん中にある囲炉裏に火を起こしている最中。あの木を手でぐりぐりやって火を起こすやつをぐりぐりやりながらくるっと振り返って「あらおかえりなさい粕太郎さん」
「なんだい火なら俺が起こすよ」「だいじょうぶわたしがやります」「いいからいいから」「あらじゃあ粕太郎さん一緒にやりましょ_」なんちゃってふたりで手を取り合いながらぐりぐりぐりぐりと…。家を〜作るなら〜♪ 家を作るならば〜♪ 竪穴掘って〜♪藁を敷き詰めて〜♪ ぐりぐりぐりぐり〜♪
「あの…」
 あ…?
 藍さんが立っていた。
 浮かれて歌など歌いつつ将来のふたりの姿を思い浮かべてたら藍さん来てたっ(°_°)
「あ、藍さん…」
 俺は途端に緊張した。
 藍さんは…。
 藍さんは…少し俯き加減で…深刻な顔をしていた。
 え…?
 どうしたの?
 や、やっぱり、そりゃ、緊張するよね。
 うん、だいじょうぶ。俺もめちゃ緊張してるから。
 さあ、俺から…俺から声を掛けなければ…。
「藍さん…本日は…えーと本日は…あ、足元のお悪い中…このような…」
 な、なに言ってるんだ?
 足元悪くねーぞ。
 俺、緊張してる〜思った以上にことのほか緊張してるぅ〜。
 どうなる俺の告白ぅ〜っ>_<

 その時、デバトンが俺を頭上を飛び抜けて行ったコトを…俺は知らなかった。
 そして…。
 その瞬間、弓道場から放たれた一本の矢が、やはり俺の頭上を掠め、先に飛んでいたデバトンを打ち抜き、先の茂みに落下したコトも、俺はまったく気づかなかった。

 そして、藍さんですらそれに気づかなかったのであった。
 藍さんは、俯いたままであった…。

(つづく)

「藍さん…」
 俺は緊張の中にも湧き上がってくる情熱で体が燃えそうだった。
「あ、あの…」
 ようやく藍さんのくちびるがはにかみながら動いた。
 か、可愛い☆可愛すぎるぞ、その、くてぃびぇお…。
「私も大萬くんのことが…」
 ほら来たやっぱりぃ〜*?(^o^)/*
「…好き…」 
 ほーらほらほら来た来たやっぱり〜\(^o^)/
「でもなんともないの」
 ズコーっ!
 コケたあ〜>_<
 漫画みたいにコケちまったあ〜。
「コケーっ!」
 悲鳴もそのままコケーっ!と言ってしまったっ!
 な、なんでやねんっ!
 なんでそうなる?
 そ、そんな答えは想定してなかったよ…。
「私も大萬くんのことが好き…」ときたらその後は普通「でした」か「だったの」だろっ!
 お決まりだろっ!
「好き…でもなんともない」???
 わからない。ものすごいダメージ。
 立ち上がれないんすけど。
 そんな答えは想定してなかったよ。
 頭の中がひっくり返ってノー味噌全部こぼれ落ちた。
「あ、ちがう…」
 藍さんが言った。
 え?
 俺は顔を上げた。
 ちがう?
 確かに今「ちがう」と言ったね藍さんっ!
 藍さんの顔…。
 ?
 どうしたの?
 泣きそうにつらそうだ…。
 どうしたの?
「わたし…粕太郎さんのコトを…」
 え?
 え?
 なになになになに?なにーーーー?
「好きに…」
 ほーら来たあ〜ぁ\(^o^)/
 立ち上がったぞ俺っ!
 待ってましたよ藍さん、もう焦らしちゃって〜。もぉ〜お茶目な藍さん〜?
「もなんにもなってませんごめんなさい」
 ズコーンっ!
 再び地面にどたまがめり込んだわっ!
 コケたなんてもんじゃないわっ!めり込んだわっ!
 あ、藍さ〜ん、それはなかっしゅ〜(T . T)
 なかっしゅなかっしゅなかぶあぃいやいやい〜T^T
 藍さんは「ごめんなさい」の言葉と同時に頭を下げていた。
 俺は長い時間かけてやっとコケの体勢から見上げるように藍さんを見た。そして…。
 そして…。
 泣いている?
 泣いて?
 なぜ?
 泣きたいのはこっちで…。
 振られたのは俺で…。
 藍さんがわずかに顔を上げて俺を見た。
 涙がぼろぼろと頬を伝わって流れ落ちていた。
「藍さん…」
 藍さんは、俺のコトを好きでもなんでもなかった。
 でも、それを言う藍さんのこの大粒の涙はなんなんだろう?

思考能力が停止してしまった俺はただ藍さんの泣き姿を唖然と見上げるだけだった。
 俺が…この藍さんの涙の訳を知るのは、…それは…もう少し…先になる…。
 
 ☆ ☆ ☆

 その時…。
 しゅるしゅるしゅるっと鈍い風を切る音が聞こえた。
 それはっ!
 無数の矢がこちらに向かって飛んで来る音だった。
 泣いていた藍さんの表情が一瞬にして鋭くなった。
 涙はちぎれ飛び、すぐに乾いた。
 そしてあろうことか、藍さんが俺に抱きついた。いや、抱きついたのではない。コケている俺を掬いあげるように抱えたのだ。俺は藍さんと重なり合ったまま地面を一回転半することになった。
 ふと見ると今ままで俺がいた地面に矢が立て続けに突き刺さった。そして次の瞬間、矢先が爆発した。
 地面がえぐれ飛んだ。
「えっ?」
 考える間もなかった。
 が、矢が飛んで来たのは確かに隣の弓道場からであった。
 藍さんは俺を抱えたまま姿勢を低くしてその弓道場の方に意識を向けた。
 さっきまでいた何処かの弓道部の姿はなかった。
 その代わりに幾つかの影が素早くこちらに向かってクロスしながら近づいて来た。 
 いや、俺はそれをしっかり確認出来たわけではない。ただ、そんな風に見えただけだ。
 だが、再びなん方向からも矢が飛んで来た。
 これ、確実に俺に向かって来ているっ! 俺は串刺しになること確定だった。
 が、次の瞬間俺は頭上高く飛び上がっていた。いや、飛び上がったのは俺ではなく、俺を抱えた藍さんだった。
 的を失った矢はそのまま今まで俺の後方にあった竪穴式住居に突き刺さった。そしてさっきの地面と同じく矢先が爆発した。竪穴式住居はふっとび、さらに炎上した。ぶ、文化財がっ!などと冷静な判断をしている余裕はまったくなかった。
 竪穴式住居の炎上を俺は空中から見下ろしていた。
 とす…と、俺は着地した。
正確には着枝かな?などとやはり冷静に言い直している余裕はなかった。
 な、何メートルあるんだこの木は?15?20?…だから、とにかくそんなコトを冷静に考えている暇はなかったのだってば。
 俺はとてつもなく高い木の上の枝に藍さんによって連れて来られた…のだ…。
「お怪我は?」
 あのほどほど美女の藍さんが今、きりりとした目でそう言って、俺の答えを待つこともなく、素早く俺の体をチェックした。
 俺は、無事である。無傷である。なんともない…。だが、とてつもなく高い木の上にいてそれは藍さんに抱えられてだ。
 いや、同じことを何度も書いてしまうが、俺はとてつもなく高い木の上に藍さんに抱えられて来たのだ。本当の意味で無事なのか? 俺のいた地上では爆発する矢で地面はえぐられ

 竪穴式住居は燃えている。
「少吾さまによる暗殺命令が…下った模様にございます…」
 言い淀むように、俺から視線を外し…いや、これは周囲を注意深く探っているのか?わからないけど…藍さんはそう言った。
「え…?」
 俺にはなにもかもわからなかった。
 しょうご?
 あんさつめいれい?
 藍さんが、再び俺をキリと見た。
 強い目だった。
「太吾さまのお命、この藍が身命を賭してお守りいたします」
 そう言って藍さんが頭を下げた。
「え?」
 …と、俺は言うばかりだった。

 何体かの影が俺のいる木の幹を垂直に走り登って来た。
 藍さんは、す、と身構えて制服の襟に手を掛け、びりと制服を引きちぎる。続けてスカートも。
 下は藍一色の装束だった。するりとやはり藍色のスカーフを取り出したかと思うと顔に巻きつけた。藍さんの顔の目以外が隠れ藍一色になった。
 そしてダッシュしたかと思うと真一文字に木の幹を走り下った。
 下から向かって来る影とすれ違ったと思った瞬間金属の叩き合う音がした。
 すべての影が地面に落下した。そのうちの藍色の一体がバウンドして跳ねた。地面からまた連続して爆発が起こった。
 藍色以外の影がすべて爆発した。

 木の幹にしがみついてそれを見ている俺の体はどうしようもなく震えていた。歯がガチガチとなっている。心臓の鼓動がもう俺の体から飛び出るかと思うほど激しくなっているのがわかった。その鼓動の大きさで俺は枝から弾けて跳んでしまうのではないかと思ったほどに。

(つづく)


ア…アタマウニデッカ?
オレ…アタマウニデツカ?
愛の告白中に起きた珍事…ちんじ?…に俺はアタマウニデルカ?
考えるのーりょく発動不可能。
見ている光景を受け入れのーりょくゼロ。
今の俺はただ心臓がばくばくしている生き物に過ぎなかった。
藍さんの藍一色の姿は…まるで忍者…なのだ…。忍者…なのだ…。忍者…なのだ…。
なんだか大事なコトなので三度言いました。
地上で起こった爆発の煙がまだ生々しい中、さらに新たなる無数の影が飛び交っていた。そしてまた俺に向かって何本もの矢が放たれた。
藍装束が…藍さんが、その矢を追うようにジャンプした。俺に届くその寸前に藍さんが矢を刀で全て薙ぎ払った。矢はやはり宙で全て爆発した。か、刀?
藍さんが体をひねり地上に向かい立て続けに手裏剣を放った。しゅ、手裏剣?
手裏剣は地上の影たちにすべて命中し影たちはその場に倒れた。そして、次の瞬間ことごとく爆発した。ば、爆発っ?
宙にいた藍さんが今度は地上に向かって落下していった。いや、木の幹を垂直に走り下っている。
地上では早くも次の影の集団が現れ弓を引いた。その影たちに突進しながら藍さんはまたもや手裏剣を連投した。
☆132
鮮やかで素早い動きだった。さすが俺の惚れ込んだ藍さん…て、何を俺は呑気な解説をしてるんだっ!
影の集団は矢を放つ前に粉砕された…と、思ったのだが、倒れこむ影たちのひとつから矢が樹上の俺に向かって発射されていた。その矢は必然的に地上に突進する藍さんに向かっていた。
「!」

藍さんが低く息が漏らし体をひねって避けた…が、矢は腕をかすって抜けた。
藍さんの腕から血がほとばしり散った。
「藍さんっ」
思わず俺は声を出していた。
叫んだつもりだったがほとんど喉に絡まって音にはならなかった。
その瞬間から藍さんのが木の幹から離れ落下の態勢になった。
今度は本当に落下だった。
そしてっ!
藍さんの腕をえぐった矢は真一文字に俺に向かって飛んで来る。
「ひっ!」
ざぐっ!
矢は俺には当たらず俺が乗っている枝の下側に逸れて刺さった。
藍さんの腕をかすったために的が外れたんだ。
その矢が爆発した。
俺の乗っている枝は根元が吹っ飛んだ。
俺は木の枝ごと落下しはじめた。
藍さんが地面に転がった。影たちが一斉に刀を抜いて藍さんに襲い掛かった。藍さんはまた刀をまるでバトンの様に振り回し体を回転させながら影を斬った。斬った?
斬られた影たちは倒れこみながらみな爆発した。
俺は落下しながら頭上に四方から矢の迫り来る音を聞いた。
そう頭上からだった。
今度は敵は木の上にいたに違いない。て、敵て。よくわからないけどとにかく敵だろ。
敵じゃないか?
敵的な敵だろ。
藍さんが再びジャンプした。
俺は俺が乗っていた枝から離れていた。
地面に向かってただ落ちるのみだった。
頭上背後から迫る矢の音。俺はその矢がすべて俺に向かっていることを確信していた。
俺は何故か知らぬが命を狙われているのだ。それだけは肌でわかった。あとはなんにもわからない。わからないが、迫り来る矢は俺に刺さるのであろう。
それはなんだかわかる。
そして、それまでのように矢は爆発するのであろう。
つまり俺は…死ぬっ!
死ぬ?
死ぬって?
なんでだっ?
死ぬ理由がない。
すべて鳴かず飛ばずに目立たなく育ってきた俺がなぜ矢にささって爆発して死ぬのですか?
わかんな過ぎるよっ!
そんなアタマコンラン落下してる俺を、ジャンプして来た藍さんが下から抱きとめた。
「えっ?」
そして藍さんはくるりと身体を回転させ、俺をかばうように体を入れ替えた。
「藍さんっ、なっ!」
なにをするんだっ!と、言いたかったのだが最後まで言えなかった。
次の瞬間、ドスドスドスと鈍い音がした。そしてその振動が伝わってきた。
藍さんに抱きかかえられている俺はそれを確認することは出来なかったが、頭上から襲い来た矢は藍さんの背中に刺さったのに違いなかった。
そ、そんなバカなことが…!
「藍さんっ!あ…」
藍さん…ともう一度言いたかったが続かなかった。
俺を抱える藍さんの力がふっと弱まったのだ。
藍色の頭巾で覆われた藍さんの顔が俺の左肩に伏せるようにあった。俺は頭巾から覗く藍さんのうなじを目の前にしていた。
「太吾さま…」
藍さんが俺をそう呼んだ。
そう弱々しい声で呼んだ。いつもの控えめの藍さんの声だった。
「太吾さま…殿…」
…とも呼んだ。俺のことを…殿…と…。か細く震える声だった。
「…藍…叶うことならば…末長く…太吾さまのおそばでお守りし続けとうございました…」
そう言った…。
消え入りそうな声で藍さんはそう言った。
その意味は…まるでわからなかったが、藍さんの、その力尽きたような声が、そのすべてを諦めた言葉が…俺の胸にしみてきた。
訳もなく涙があふれ出た。俺の目から。
まるでこれがもう最後のひと時のような…そんなはずないのに…
そんなはずないのに、そんな気が…そんな…気がした…。

「藍っ!」
「藍さまっ!」
地上からふたりの女の声がした。
それは…。
それは、なんと…
あろうことか…
十季と…
十季とかあさんの声だった…
藍さんが、十季とかあさんの声に呼応するようにぴくりと動いた。
抜け切ろうとしていた藍さんの身体に再び力がこもった。
藍さんが俺を力強く抱え直し、地上目掛けて突き放した。
俺は、藍さんの身体から離れていった。宙に残る藍さんの藍一色の全身が見えた。
その背中に突き刺さった矢も…見えた。
「藍さん・・・」

☆ ☆ ☆

10分前。
「ただいま〜」
と、十季はいつものように大萬中学から帰って来た。
「なんかある〜?」
と、十季はのんきに冷蔵庫を開けた。
「プリンあるわよお〜」
かあさんがのんきに答えた。
「あ、マンゴープリン、なんかでっか〜い」
「大萬フェアやってたのよスーパーオザワで。おおまんにひっかけて大マンゴープリンだって、あははははっ」
「あははは、なにそれぇ〜」
日常だった。
だが…。
ゴンっ!
と、何かが台所の窓ガラスに当たり、ふたりをそっちを見た。
窓の外に血まみれのデバトンがいた。

萬粕城を飛び立ったデバトンの後を追うように飛びたった武甲衆のクロバトンは竪穴式住居隣の弓道場にいた武甲衆弓組(粕太郎を襲った影の集団である)にいち早く少吾の暗殺指令の発令を知らせていたのだった。
それに依りデバトンは大萬公園でこの弓組に射抜かれたのだ。
だがデバトンも忍びの鳩。
自ら矢を引き抜き(どうやって?)、目的地の大萬家にたどり着いたのだった。
「デバトンっ」
十季が駆け寄り窓を開けデバトンを抱えた。足についた小さな紙片を取り出し、
広げて文面を確認した。
再びふたりは見合った。覚悟していたことだった。
すべてが終わり、すべてが始まる。
「太吾さまは?」
かあさんが聞いた。
「おそらく竪穴式住居」
十季が答えた。
「警護は藍のみか?」
「はい」
「デバトンがこの状態で何も起きていない筈がない。急げ十季」
「はっ」
次の瞬間、ふたりは鴇色と柘榴色の装束で家を飛び出していた。と、鴇色とざ、柘榴色?

☆ ☆ ☆

その10分後だった。
藍さんは体を翻し、周囲の木々めがけ鎖分銅を何本も投げた。く、鎖分銅っ?
しゅるるるるっ
鎖分銅は蜘蛛の巣のように四方に飛び木々の中に散った。
回転をやめず藍さんが鎖を手繰り寄せた。
分銅に絡め取られた6人ほどの弓組らがひっくくられた。
トンと木の幹を蹴り藍さんは大池の方に飛んだ。
池の中程から奥は水草が茂っていた。
藍さんと絡め取られた弓組がその水草の中に姿を消した。
藍さんが見えなくなった。
藍さんが俺を宙で抱きとめてから、水草に姿を消すまでの時間は…おそらく数秒…。
俺は地上に落下した。
地上すれすれで俺は柔らかい手で受け止められた。
鴇色と柘榴色の装束に身を固めた十季とかあさんだった。
かあさんが俺を背後で抱え、十季が俺の上に覆いかぶさった。
俺の視界は十季に寄って遮られた。
俺の顔の上に十季の胸があった。
どおーーーーーん
爆発音と共に水柱が立った。
地面が振動して俺の体が小刻みに揺れた。
ざざざざざどお…
大量の水滴が俺たちの上に降り注いだ。
俺の上には十季がいた。
ほとんどの水滴は十季がかぶった。
やがて・・・。
水滴の音がやんだ。
全てがおさまった。
俺も・・・十季も・・・俺の下で俺を抱えているかあさんも・・・動かなかった。

俺の耳に、のどかな鳥たちの声が蘇って来た。

第一話 おわり

| 大地丙太郎 | くのいちせぶん | 22:42 | comments(0) | - |
スポンサーサイト
| スポンサードリンク | - | 22:42 | - | - |









 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031   
<< May 2017 >>
+ SPONSORED LINKS
+ SELECTED ENTRIES
+ CATEGORIES
+ ARCHIVES
+ MOBILE
qrcode
+ LINKS
+ PROFILE