大地丙太郎文庫

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踊る!柳生十兵衛 01
隻眼の小男ながら剣をとっては日本一、生まれながらの天才児とも申すべき柳生十兵衛三厳の甚だノーテンキな旅日記を申し上げます。

題して『踊る!柳生十兵衛』にございます。

三代将軍家光のころ。ここは江戸・柳生屋敷であります。
いま、暗い部屋に向かい合いますは大目付柳生但馬守と、その嫡男十兵衛三厳。
大目付というのはまあ、警視総監のようなもの。
今、まさに息子柳生十兵衛に、父から直々の密命が申し渡されようとしております。
但『十兵衛、次の使命じゃ。豊臣家の埋蔵金の在り処を握ると言われている秀頼の落し胤、菜々が、神州菜澤山山中に豊臣残党の者らと密かに暮らしおる事が判明した。お前の使命はこの菜々を捕らえ、豊臣の埋蔵金の在り処を突き止める事にある。
さらにその際、おそらく菜々を差し出す事に抵抗するだろう豊臣残党どもを、その理由で、ことごとく斬れ!』
厳かな但馬守のくぐもった声はその密命の内容とあいまってちょと怖い。
父にひれ伏しておりました十兵衛三厳も厳かに答えます。
十『お断りいたします』
但『なにーっ!?』
十『もう、そういうダークな仕事はご免被ります。わたくし、柳生を辞めさせていただきます』
と、いきなりの引退宣言の十兵衛。
え?柳生十兵衛が柳生を辞める?
但『なにい〜っ!』
と、ここで映画ならばどどーんと入るメインタイトル!

『踊る!柳生十兵衛』!

但馬守が口をあんぐりと開けて固まっております間に、当の十兵衛三厳は、まるで憑物が落ちた様に軽やかに立ち上がりますと、障子を開け放ち廊下と出る。
渡り廊下を鼻歌など歌いながら玄関に向かっておりますと、十兵衛の弟、又十郎がやって参ります。
いつも厳つい形相でダークな任務を遂行する兄と違う様に、又十郎いささかギョッといたします。
十『よお、又、達者でな』
と、軽い口調の兄にさらにぎょぎょとなる又十郎であります。
又『あ、兄者?』

柳生十兵衛、旅の空。何処に行く当てひとつなく、風にまかせた気まま旅。
これまで幾度も歩いた道なれど、いつもは諸藩の動向を探りに行ったり、時には無理矢理その藩のエラーを見つけ出しそれをネタに取り潰しまで持って行くなどとそりゃもうダークな使命を背負っての道中。
景色なんぞ見たこともない。
そんな仕事から解放されての足取りも軽い旅でございます。

さてその一方、こちらは十兵衛が出て行った後の柳生屋敷。
但『又十郎っ! 豊臣家の埋蔵金の在り処を握ると言われている秀頼の落し胤、菜々が、新州菜澤山山中に豊臣残党の者らと密かに暮らしおる事が判明した。お前の使命はこの菜々を捕らえ、豊臣の埋蔵金の在り処を突き止める事にある。さらにその際、おそらく菜々を差し出す事に抵抗するだろう豊臣残党どもを、その理由で、ことごとく斬れ!』
十兵衛の時とまったくおんなじことを言っている。
十兵衛がそれに逆らったのに対して、又十郎『ははっ』といい子ちゃんなお返事。
但馬守、今度は渋くわずかににっこりいたします。
但『この仕事は本来お前の兄、十兵衛のものであった。だが、やつは出て行きおった。又十郎、今日からはお前が十兵衛となれ。柳生十兵衛として、この柳生を背負って立ってくれい』
又十郎『は』
と、とまどいますがすぐに嬉しそうに『ははっ!』と答える。
但『だが、十兵衛はひとりで良い』
この言葉には又十郎もとまどいます。
但『又十郎、十兵衛を、斬れ』
又『兄者を!』
ああ。但馬守、どこまでもダークでございます。

と、但馬守と又十郎の密談を密かに廊下でうかがうものあり。
くんくん。
ちょっといい匂いのおねえさん忍び、美影であります。
つまりくノ一。
作者、よほどのくノ一好きと見た。
くノ一美影は柳生忍群のメンバーでございます。
美『十兵衛さまが』
心の中でつぶやいて…モノローグというやつですな…柳生忍群切っての美女、美影は青ざめた顔で、身を翻してその場を去ります。
美『(走りながら)お知らせせねばっ! 十兵衛さまにお知らせせねば!』
美影さん、どうやら十兵衛の味方の様でございます。

さて、そんなざわつく晩から、ざっくりと少し経ちましてございます。
ノー天気で気楽な旅を続けていたと思われていた十兵衛でございますが、うーむ、これまでは手下がいろいろ世話してくれて、諸藩に行く道を調べるのも手下の仕事。十兵衛はそこに乗っかっているだけだったので、一体今自分が何処にいるのかさっぱりわからない。それどころか、なんだか腹も減ってきた。そりゃもう柳生屋敷を出てからしばらくの間食べていない。
武士は食わねど高楊枝も、限界がある。
十『えーと、腹が減ったら飯だよな』
当たり前のコトを恐る恐る言っている十兵衛であります。
ふと前方に見えるは、街道の茶屋。そして茶屋の店先にたなびく団子の暖簾。
あら旨そうでございます。十兵衛、引き寄せられる様に茶屋に入る。
十『おばさんコレね』と茶屋のおばんに暖簾を指して団子を注文。
おばんにこにこ『はいよ』と皿に乗せた団子を持って来る。
むさぼり食う柳生十兵衛であります。
食う食う。とても日本一の剣豪には見えない様だよ。
ふと、ふところが気になった十兵衛、財布を取り出し中身を覗く。
ぎょ?
あんまり持ってなさそう。そういや身一つでポイと柳生屋敷を出てきちゃったんだ。
十兵衛、ちらっとメニューを見る。
「団子 三文」
安いね。でも十兵衛はぎょっとした。三文もないんかい。
しかも、もうだいぶ食べちゃったよ。10本はいっちゃったね。こりゃまずい。
そっと茶屋のおばんを振り返る柳生十兵衛。
ぎろんと十兵衛を睨む茶屋のおばん。
どきんとする十兵衛であります。こりゃばれてるんじゃないの?
おばん、だいぶ怪しい顔してましたよ十兵衛の旦那。


(つづく)
| 大地丙太郎 | 踊る!柳生十兵衛 | 16:41 | comments(0) | - |
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