大地丙太郎文庫

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くのいちせぶん 2話 01

08くのいちせぶん
2話「ストップ!!くノ一くん!」
その1

のどかな鳥の声。
静まり返った大萬公園の大池の水面。
なんの跡かたもない。
池にはなんの異常もない。
藍さんの姿は見えなくなったままで、現れる気配もなかった。
藍さんはどこに
藍さんは
あいさん
俺は呆然と口をあけたまま、しばらく、まるで生きていなかった
十季とかあさんが俺から離れた。
並んで目の前にひざまづいた。
「太吾さま、お怪我は?」
と、かあさんが伏し目がちで言った。かあさん?
「たい?」
俺が聞いた。
「はい」
と答えたのは十季だった。
「あなた様は、萬粕家・・代目当主・・様のご落胤、萬粕太吾様でございます」

ん?
「ままんかす?」
たいご?
ごらくいん? どらくえ? のらくろ? え? なんて言った?
俺は俺は
「大萬粕太郎だけど
ずっとそれでやって来たんだけど
「はい、これまでは確かにあなた様は大萬粕太郎としてやってまいりました」
十季が言った。
まるで俺の心の声を聞いたように答えた。
「萬粕家の次期御当主、少吾様が太吾様に暗殺指令をお出しにならなければ、太吾さまは、大萬粕太郎としてとくに何事もなく、楽しきこともほどほどに、悲しきこともほどほどに、格別面白みもない、平穏無事で抑揚のない生涯をお過ごしになっていたことでしょう」
と、丁寧な口調で話すのはかあさんであった。かかあさん?
そのかあさんの声が気になるのだが、その前に今聞いた言葉がもっと気になった。
「あんさつしれい?」
あんさつしれい
藍さんの口からも出ていた。
暗殺指令。
俺に?
暗殺指令?
なんで?
「太吾様は、萬粕家十九代目当主机衛門様のご落胤、萬粕太吾様だからでございます」
まただ。
十季が、俺の心の声に答えた。

そう言えば、こいつ今朝もそうだった。俺の心の声を読んで
忍者かっ!

にんじゃ?
ま、まてよおいにんじゃ?
ま、まさかおいにんじゃ?
「太吾さま」
かあさんが顔を上げた。
え?
ええ?
「これまでのご無礼の数々、お許しくださいませ」
そう言ってまた目を伏せた。
えええーっ?

わか
「わたくし、秩父忍者三峰衆、七くノ一が頭、柘榴と申します」
若いーっ!
ちちちちぶにんじゃ?
みつなんとか?
なんとかくのいち?
かしら?
さぐろ
いや、わかいーーーーっ!!
若いっ!
かあさんじゃないっ!
ちっともかあさんじゃないっ!
かあさん大萬満子は45歳のどこにでもいるちょっとたるみがちの、小皺も白髪もぼちぼち出始めた歯並びさえがたがたなノー天気なおばさんなのに〜っ!
いま、俺の目の前にいるのは、それこそ20歳くらいのぴちぴちのつやつやのなんだかキュートなぼんぼーんなんですけど。
ちょっと好きになっちゃうかも知れないくらいの可愛い子ちゃんなんですけどお〜っ!
歯並び抜群だし白い歯っていいなあ〜ってくらい綺麗だし
「とのが驚かれるのも無理はございません」
と言ったのは妹の十季。妹?妹なのか?十季は?
「我らが七くノ一頭、柘榴は齢19にございます」
よわいじゅーくー?
たったふたつおねいさまあ〜?
「本日まで、太吾様の母満子としてお側でお務めさせていただきました。すべてはいつなんどきこの日が来てもお守り出来るようにと


そ、それもじゅうぶんたまげるけどそのあの
なんでこのかわい子さんが今までずっと俺の母さんが出来たわけ?
「はい、それは」
また十季が心を読んで答えた。
「忍法老け化粧にございます」
にんぽうふけげしょお〜〜っ!

一旦、俺はここで気絶した。

(つづき)

その時
俺は何故藍さんを抱きしめなかったのだろう?
何故、藍さんを抱きとめなかったのだろう?
何故、藍さんを抱き寄せなかったのだろう?
何故好きな人を守らなかったのだろう

09『くのいちせぶん』

2
「ストップ!くのいちくん!」
その2

暗い部屋で俺は、電気もつけず手紙を書いていた。
憧れのクラスメイト藍さんに。
「おにいちゃ〜ん、お〜き〜ろぉ〜」
階下から十季の声がした。
うーん俺は、藍さんへのラビリンレターを書きながら寝てしまったのか
「おに〜ちゃ〜ん」
まずい。
十季が上がって来る前にラビリンレターを隠さなくては。ラビリンと、あれ?ラビリンレターじゃないぞこれ。
そこには4冊の妹モノエロ同人誌が。
ぎゃーっ、なんで俺こんな物見ながら寝ちまったんだあ〜っ!
「お〜き〜ろぉ〜」
十季の声が近づいて来た。

目が覚めた。

俺の部屋
俺はベッドの中だった。
部屋の天井と、壁がぼんやり目に写った。
部屋には電気はついていない。もう外はとっぷりと暮れているようだった。
ゆめを見ていたのか
ゆめか
どこから?
どこからゆめだったんだろう?
「大萬公園で気を失われてからでございます
囁くような声が聞こえた。
部屋の片隅に十季がいた。
床に正座してた。
ちょっとうつむいて。あの、まるで忍者のような鴇色の装束だ。
大萬公園まで現実だったんだ
十季が俺に向き直って頭を下げた。
「殿、これまでのご無礼の数々、お許し下さいませ」
うやうやしく言った
かあさんが言った言葉と同じだ。
「十季あのさ
俺が言った。
「はい」
と、十季が答えた。
はい?
はいって
今朝までだらぁ〜っと「なにぃ〜?」とか「はぁ〜ん?」とか、とにかく生意気だった十季がなんだかじゅーじゅんに「はい」だと
「お前
十季だよな
こころのつぶやきに十季はまた「はい」と答えた。
「秩父忍者三峰衆七(なな)くノ一がひとり、十季にございます」
十季十季は十季なんだ
「本来は『鴇』なのでございました。正体を明かした暁に『鴇』となる予定でしたが、作者が書いているうちに『十季』の二文字をいたく気に入ってしまい、今後とも『十季』表記で参ることになりました
その情報はいるの?
それはいいとして秩父忍者なんとかしゅうのななくのいちのひとりって?
「お前
俺はもう一度言った。
いつ?
いつよ
いつから忍者だったわけ?
だって、俺はこいつが赤ん坊のときから生まれた時に病院に行って生まれたての十季の姿だって覚えてるんだぜ。
「その時からでございます」
「えっ?」
「生まれた時から
また心を読んで十季が答えた。
生まれた時から?
「正確に申せば、生まれる前から決まっておりました。わたくしの役目は、生まれたら殿の妹として生きることでございました」
生まれる前から決まってた?
「少吾さまの暗殺指令が出たその時には、警護のくノ一であることを明かし、身命を賭してお守りせよとの命を受けておりました」
生まれてすぐに
俺の妹になって
俺の警護をしてた
じゃあ十季は、俺の本当の
「妹ではございません」
のか。そうなのか
十季が俺の妹じゃない
十季は俺を警備するくノ一
こぼれ落としそうな、いや、だいぶこぼれ落としながら、俺は十季の言葉をひとつづつ飲み込もうとしていた。
俺は殿で誰かのご落胤で粕太郎じゃなくて太吾でかあさんはかあさんじゃなくて十季は妹じゃなくてとうさんはとうさん
とうさんはとうさんも?いや、とうさんのことも、少し気にはなるけど

藍さん。
藍さんは

十季は黙っていた。
藍さんは?十季っ!

「藍は
答えたのは、かあさんだった。
いや、夕方までかあさんだった柘榴さん
柘榴色装束の19歳のぴちぴちのつやつやの歯並び完ぺきのなんとなくぼんぼーんの柘榴さんがいつの間にか俺の部屋にいた。
手の盆に湯気の立つ小さな土鍋が乗っていた。
かあさ柘榴さんが、俺のベッドの傍まで進み、サイドテーブルに盆を置いた。
土鍋の中は真っ黒な雑炊であった。
黒雑炊?
「太吾さま、我が三峰衆に代々伝わる黒雑炊でございます。召し上がって下さいませ。とても滋養に良うございます」
やっぱり黒雑炊って言うの?
イカ墨雑炊なのかな?
でも、俺は黒雑炊よりもかあさんじゃない、柘榴さんの次の言葉を聞きたかった。
「藍さんは?」
俺から柘榴さんに聞いた。
「どうなったの?」
「藍は
柘榴さんが続けた。
「未熟ゆえのみぐるしき失態、お恥ずかしき事」
みじゅくゆえのみぐるしきしったい、おはずかしきこと?
「!」
どういうことっ!?
まさかっ?
「自らの命と引き換えに太吾さまをお守り出来ましたことは、七くノ一としてせめてもの救い」
藍さんも七くノ一のひとりだった
そして
命と引き換え
「命と引き換えって、じゃ、じゃあ、藍さんは?
爆矢を受けたまま敵とともに大池に消えた藍さんは、あの爆発で
俺のために
「もとより主君のために命を投げ出すこと、忍びとして当然のことにございますゆえ」
「なっ!」
淡々と語る柘榴さんに、俺はまた気絶しそうになった。

(つづく)

10 くのいちせぶん
2
話「ストップ!くのいちくん!」

その3
俺のエロ漫画を探し出してからかっていた妹も、目玉焼きに茄子の漬物添え、豚汁とトースト、日本茶というアンバランスな朝食を作っていたかあさんも、憧れのクラスメートの美女、美山藍さんも、すべて俺を暗殺から守るくノ一であったとか
そんなもんすぐに信じられるか〜いっ!
かあさんが19歳だったとか、藍さんが俺の命を守って爆死したとか、俺がなんとか城のご落胤の殿だとか暗殺命令を出したのは萬粕城の20代当主となる少吾とかいう多分俺の弟だとか信じられるか〜いっ!
何事も目立たずほどほどで鳴かず飛ばずの生活をして来た俺がこんなエッヂの立った状況を受け入れられるか〜いっ!
ひとりになりてえ。
思いっきりひとりになりてえ。
もお、もお!もおもおもおもお
「お前たち、下がれっ」
とか、と、殿様みたいなこと言っちゃってる俺。
「はっ」
短く言って十季と柘榴さんが同時に消えた。

ふっと

言うコト聞き過ぎ
十季の「なんでよお兄ちゃんっ!」とか生意気発言も、かあさんの「なんですか、その口の聞き方はっ!」とかのお小言発言もなく、ふっと、ふたりは俺の命令を聞いて姿を消した。まるで忍者のように。
あ、忍者か
あ、にんじゃかじゃないよ俺も。受け入れてるんじゃないよ俺も。
この、晴れ切った空にいきなり雷が落ちたみたいな状況を、俺は何からどう整理して行けばいいの?
なにから?
傍の土鍋から黒雑炊の湯気が立ち昇っていた。まだこんな熱そうにぐつぐつしてる土鍋であった。
腹減った。
黒雑炊、急に旨そうに見えてきた。
食お。
ずずずずび〜。
熱つつつつ〜。
殿
太吾
少吾
萬粕城
ご落胤
暗殺
秩父忍者
なんとか衆
七くノ一
十季
柘榴さん
デバトン
藍さん
はふはふ
ずずずずび〜
熱つつつつ〜
殿
太吾
少吾
萬粕城
ご落胤
暗殺
秩父忍者
なんとか衆
七くノ一
十季
柘榴さん
デバトン
藍さん
はふはふ
ずずずずび〜
熱つつつつ〜
殿太吾少吾萬粕城ご落胤暗殺秩父忍者なんとか衆七くノ一十季柘榴さんデバトン藍さん殿太吾少吾萬粕城ご落胤暗殺秩父忍者なんとか衆七くノ一十季柘榴さんデバトン藍さんはふはふずずずずび〜熱つつつつ〜
幾つかの気になるワードがただ俺の疲れたノーミソの中をぐるぐるして目眩もしていたのだが、やがて気持ちが落ち着いてきた。
てか、黒雑炊旨いんですけど。かあさんこんな料理知ってたんならもっと早く作ってよ、あ、かあさんじゃないのか
疲れていた体が回復して来たみたいだ。そういやお昼からずっと食べてなかったもんね。それにこの黒雑炊滋養にいいって言ってたもんなかあさんじゃない柘榴さん。
うん、なんだか少し力もよみがえって来たみたいだよ。
ことり。
俺はサイドテーブルに土鍋を置いた。
さて
うむ
ふう
「十季」
俺は静かに呼びかけた。
「はい」
やっぱり。姿は見えないけどすぐ近くで十季の声が返って来た。
「俺は、これからどうしたらいい?」
ほんの少しの間があって十季が答えた。
「さすれば、殿はこれまで通りの暮らしを続けて下さいませ」
これまで通りって。こんな何もかもが変わってしまったのに?
「それじゃ
と、俺。
「十季も、これまで通り、妹でいるのか?」
「それはございません」
即座に十季が答えた。
だろ?
俺だけ今まで通り暮らせって?
出来ないんじゃない?
「十季
「はい
「十季さぁ
「はい」
なにか話があったわけではなかった。なんだか今まで通り、何気なく呼んでみたかったのだ『十季』って
「お前さ、もう、妹に戻らないの?」
「はい」
感情のない返事が戻って来た。
「ぜったい?」
「はい」
「どうしても?」
「はい」
はいはいって
なにも抵抗せず、無感情に即答する十季に俺はどうにも居心地が悪かった。
「十季」
俺はまた呼びかけた。
「はい」
また同じ返事が戻って来た。
「なんでよ
なんでもいいからいい情報がほしい。
少し沈黙があった。
「わたくしは七くノ一の十季となりました故」
それは聞いたよ。
知ってる。
違う答えがほしいのに。
その時
「太吾さま
柘榴さんの声がした。部屋の外からだった。
「湯殿の仕度が整いましてございます」
湯殿って
ああ、風呂
風呂に入れって?
ああ、そういやいつもなら風呂の時間だ。
結構、十季と風呂の時間がぶつかっちゃって。見たいテレビがあったりして、俺が先だとかおにいちゃんがゆずってよねとか、ケンカもよくしてたけどもう、そういうこともなくなるのか
かあさんが「お風呂早く入っちゃってよね、粕ちゃん」とか急き立てられることもなく「湯殿の仕度が整いましてございます」とかなっちゃうんだ
そんなケンカも急き立てられも、もうないけど、風呂の時間はいつも通りなんだ
でもなんだか熱い湯船に入ってカラダを休めたい気もした。
「うん、わかったあ、わかりました」
俺は部屋の外の柘榴さんに向かって言った。かあさんでなく、俺よりふたつ上だという柘榴さんに、イマイチ俺はどう接していいか戸惑っていた。
「あ、ざえと、柘榴さん
部屋の外に呼びかけた。
「はい」
「黒雑炊美味しかった
恐れ入ります」
「また作って下さい」
柘榴さん、やや返答に間があって。
「また黒バトンを仕留めましたなら
ん?
「黒バトン?」
なんのこと?

(つづく)

11くのいちせぶん
2
話「ストップ!くのいちくん!」

その4

俺は階下へ。
湯殿って言っても、これはいつもの俺んちの風呂なのね。0.75坪出窓タイプの…(^^;;
特に仕度がどうのとか大袈裟なほどもなく、ピッとスイッチ入れれば沸くいつもの風呂なんすけど…(^^;;
なんというか、残ってる日常がありがたいというか
突然やって来た非日常をなんとか否定したいというか。こうして毎日入っているなんでもないただの風呂がやたらめったらありがたい気分だ。
と、カタっと風呂の戸が開いた
はっ?
「失礼いたします」
十季が入って来た。
「な、なんだよっ!」
ぱた。
と、戸を閉めると、すすっと湯船に近づいた。
ちゃぽり。構わず湯船に入って来る。
「と、十季ぃ〜、な、なにやってんのおっ!」
「敵の攻撃がいつ何時襲い来るかわかりませぬゆえ、お側にて警護いたします」
お側過ぎるって!
ぴったり側過ぎるって!
「殿、わたくしのことはお気になさらずごゆるり」
お気になりますってっ!ごゆるり出来ませんてっ!
0.75
坪タイプの家風呂の湯船ですよ。
十季は俺の足の間に挟まってる形になってるのよ。
しかもさっ!
「なんで裸なのよっ!」
十季、全裸。
あの、俺、初めて見たのです(汗)十季の裸姿。ってかオンナのコの裸。生で見たの初めてなんですけど。こ、こういう形で妹の裸を見るとは思わなかったんですけど。あ、い、妹じゃないけどさ。ん?あれ?なんかこの光景見たコトあるぞ。

『おにいちゃん大好き』だ
けつべん子先生の同人漫画『おにいちゃん大好き』だよっ!
「おにいちゃん、一緒にお風呂入ろうっ☆」なんて言ってこんな感じで妹が入って来て、おにいちゃん大慌て。「あ、ダメだよ美ゆ季」「だって小さい時はいつも一緒だったじゃない」「ち、小さい時はね、だけど今はお前」「おにいちゃん、美ゆ季のこと嫌い?」「嫌いなわけないだろっ、す、好きだよ」「美ゆ季もおにいちゃんだーい好き」なんつっておにいちゃんに抱き付く美ゆ季、そんでそれからぺろぺろとあっコラ!ま、まずいっ!ちょっと俺、変な気持ちにっ!ダメよダメダメっ!
どちょーんっ!
いくら勝手に更新といったってSNSでこれ以上書いてはいけない〜〜〜っ!
「私共の使命は殿のお命を守り抜く、ただそれのみにございますゆえ、今、殿が想像しているようなことには決してなりませぬ故」
ぴしゃりと十季が冷めた顔で言った。
なりませぬのねそうなのねまたこころを読まれたすげえ恥ずかしぃ〜っ!
「だからさお側で警護はわかるんだけどさ、なんで裸なんだよっ」
もう一度俺は言った。
「風呂でございます故」

ま、そりゃそうだけどさ。
「我々、三峰衆の掟にございます」
「掟?」
「風呂は裸であるべし」
よくわからんってか当たり前なんだけど。なんだろ三峰衆って
「十季
少し話もそらしたかったのもある。やや、空(くう)を向いて俺が言った。
「はい」
十季が答える。
「少吾ってやつなんだけどさ
はい」
「なんで俺を殺そうとしてるの?」
「殿が、少吾さまの兄上さまであるからでございます」
「うん、でもさ、俺はご落胤なんでしょ?最初からその萬粕家は少吾が受け継ぐ予定だったんでしょ?だって20代当主って言ってたよね?すでにそうなってんだよね?」
そうだそうだよ粕太郎、いい質問だ。黒雑炊のおかげでなんだか頭も冴え冴え。
俺がご落胤だったとしても、俺はこの大萬市で一庶民として平和に暮らしてるんだからさ、俺のことなんか気にしないで素直に20代当主になればいいじゃん。俺、邪魔しないよ。
「我々も、そう願っておりました」また俺のこころを読んだ十季が答えた。
「ですが、暗殺指令が出てしまいました」
「なんでよ?」
腑に落ちないんだよな、そこが。
「念のためにございましょう」
「念のため?」
「はい、殿が万が一、萬粕家の次期当主を主張して来られたら、少吾さまは身を引かざるを得ないからです」
「俺、そんなことしないって。興味ないもん」
「殿のそのお考え、潔う存じます」
だってホントだもん。
だし、このまま知らないでいればそれで済んだじゃないか。
「ですが、少吾さまはそうは思われなかったのでございます」
なんでだよ。
「われわれ三峰衆は、そのことを想定しておりました。そして、いざその時がやって来た時は、お近くで即座に殿をお守り出来るようにと、殿の周囲に配置されていたのでございます」
それも一度聞いた
「じゃあさ
「はい」
「もし、少吾が暗殺命令を出さなかったら?出す気がないままだったら?十季は、かあさんもどうしてた?
少吾が俺のことなんか気にしないってことだってあり得たわけだ。
十季はしばし黙った。
「その時は
十季が言った。
「何事もなく、これまで通りに暮らしていくつもりでおりました」
そうなのか。
「妹で?」
「はい
そうなんだ。
そうなんだね。
何事もなく、あのままってことだって考えられたんだ。
でも、少吾の馬鹿野郎は暗殺命令を出しやがった。
十季はその為に、妹ではなくなった
今となっては、むなしい答えだった。俺は少し胸が詰まる思いがした。
聞かなければ良かったのかな
その時、
「失礼いたします」
と、風呂の外から野太い声がした。
カタリ。
戸が開いて、そそっと入ってすぐに後ろ手にパタリと戸を閉めたのは。
「とうさんっ!」
とうさんは俺に向かい這いつくばるように頭を下げた。
「太吾さま、これまでのご無礼、何卒ご容赦下さいませ」
またですか
「とうさん」
いや、予測はなんとなくしてはいたけどさ、やっぱりとうさんまで
「とうさんも忍者だったの
「いえ」
答えたのは十季だった。
「作造は三峰衆の下働きをしております男。忍びではございません」
「さ、さくぞうっていうの?」
この17年間、俺はとうさんの名前は、大萬A男だとばっかり思ってたじゃないかあ、考えてみればA男なんて漫画みたいな名前普通ないわ、適当すぎるわ、気がつかなった俺もどうかしてたのかっ!
そういえば、とうさんの勤める商社の名前も○×商事っていったっけ?
そんな適当な名前の会社名おかしいだろっ!植田まさしの漫画じゃないかよっ!気がつかなった俺もどうかしてたよっ!
「てか、とうさん、なんで素っ裸なんだよっ」
「はは、風呂でございますゆえ」
三峰衆の掟かよっ!もういいよそれ。
「作造、もう良い、下がれ」
十季が偉そうに言った。おいおいお前、とうさんに向かってそういう口の聞き方はないって、とうさんじゃないんだよな、下働きの作造さんなんだよな
「はは〜」
と、作造さんは額を床に擦り付けるくらいに恐縮したまま、後ろに下がり器用に戸を開け閉めして出て行った。
ぱたん。
俺はまた、呆然としたまま見送った。
とうさん
ふう
ほんの昼間までなんの変哲もない鳴かず飛ばずの平凡な家庭だったのだが。
かあさんは忍法老け化粧でかあさんの振りをしていた19歳のぴちぴちのぽちゃぽちゃの歯並びが美しい可愛い人だったし、とうさんは三峰衆の下働きの作造さんだったし三峰衆がなんだか知らないしそして….
朝まで妹だった十季が、いま湯殿ってか湯船で全裸で俺といや、俺を敵から守っている。
敵から

俺の人生に「敵」なんていうもんが存在して来るなんて思いもしなかったよ。
なんてことがアタマによぎる訳だけど、そんなことより問題は目の前の全裸十季である。
あらためて目の前の十季を見る。
妹じゃないと思うと不思議。
どうしても
どうしても
どうしても目が、目がそっちに行こうとしてるしてる。
十季の胸、ちっちゃいんだなぷくっとしてて、そんで小さい乳首が綺麗な鴇色で
こうだったんだ
こ、こうだったんだ
可愛い
困った可愛い
おかしい可愛い
うぐくくくまずいっ!俺、俺も鳴かず飛ばずながら健康なせべにてぃーんであるからにして、そのか、下半身がはっ!
そんなコトがアタマの中を巡っていたら湯の中ですーっと十季のももが俺に寄り添うように触れて来た。
ちょっ!?
まずいでしょっ!
そして。十季の指が俺の腰から、すーっと撫で上げるように背中を這った。
なぐぉっ!
と、十季っ!
さらに、十季の体が俺に触れて来た。
そして、今までそらしていた目をそっと俺に向けた。
潤んだような目が、俺を見上げた。
十季ぃーーーーっ!
おにいちゃんはっ!おにいちゃんはぁぁぁぁぁぁぁあ〜〜っ!
って、あれ?
おにいちゃんはなんだか落ち着いて来ちゃったりして
十季の声が耳元で囁かれた。
「お気を使われますな、殿。狭い湯殿でございますゆえ、こうして触れてしまった方が気持ちがゆるりとなされるでしょう。忍法肌さわり
十季がニコリと微笑んだ。
めっちゃ可愛い。こんな殊勝で可憐な十季は初めてだよっ。
忍法肌さわりって
こんな忍法なら大歓迎だよっ。
十季がまた目をそらした。
「殿」

「藍さまのこと、お好きでおられたのでございますね」
。あ、藍さんのはなし
「さぞや無念でございましたでしょう。ですが、お諦め下さい
「え?」
冷たい言い方だった。感情もなく、たんたんと十季はそう言った。
たんたんと。
「藍さまは三峰の御山では、わたくしの姉のような存在でした。忍術修行の日々も、いつも挫けそうになる私を藍さまは励ましてくれました。おやさしい方でございました」
藍さん
やっぱり
そうなんだね
やっぱり、とても素敵な女性だったんだ。
嬉しい気持ちになった。
三峰の御山で共に忍術の修行をしたんだねキミら。その辺はまた後で突っ込むね。
俺の憧れの藍さん。
急に目の前で忍者になった時は俺もホントにびっくりした。
そして、勇ましい戦いをする藍さんを俺は見ていて、目を疑った。
あまりの突然の変わりようだったから。
でも、本質の藍さんも、優しい素敵な人だったんだね。
「それが忍者としては命取りでございました」
続けて出た十季の言葉は、また氷のように冷たかった。
「藍さまは、忍びとして未熟でございました」
未熟
そ、それはかあさんじゃなくて柘榴さんも言っていた。
未熟だったのか
藍さんは
あのくノ一に変身した後の藍さんの戦いぶりを思い返すに、とても未熟なんかには思えない。
「藍さまは、大萬高校での殿をお守りするお役でございました。ですからクラスも同じになるように仕組み、席もお隣になるように図ったのでございます」

図ったのか
「藍さまは、警護の立場からでございましょう。一日に何度も、殿を振り返り見られておりました」
え?
そう確かに、藍さんは一日に何度も俺をちらちらと恥ずかしそうに見ていた。
それは、俺に気があったからじゃない

「違います。警護の意味でございました」
ええーっ!
「藍さまが、殿を見ていることを、殿にしろうとの殿に気どられてしまっていたのです
しろうとってしつれいなっま、しろうとだけどさ。
「そこが、藍さまの未熟なところでございました」
つまりだよ?藍さんの未熟な警護を、俺は、気があるって勘違いしてたってことなの
あれは警護で俺に気があったわけではなかったのか
悲しくなって来たよ
「そして藍さまの最大の過失は
最大の過失?
「その気どられに反応された殿が、藍さまに目を向けて返された
返しました。見返しましたとも。だってあんな素敵な藍さんに見られたら返さなくちゃ。
「お見お返しになる殿に、藍さまはいつしか、魅かれて行ってしまったのでございます
え。
え?
え、え?
あ、藍さんが
お、俺のこと


好きに?
そうなの?
そうだったの?
ああ、そうだったのかあ〜。
思い出す。
夕方の竪穴式住居の前で、藍さんは、俺の手紙の返事をくれた時に
何度も、俺に気のあるようなないような曖昧な態度だった。
あれは、藍さん、俺に本当の気持ちを伝えようとしていたんだな。
でも、俺を守るくノ一の使命のために心を殺して
なんてなんて健気で可憐なんだろう、藍さん
でも藍さんは、そのためにその、役目のために
「殿をお守りするために、自らの命を投げ打つこと、我々忍びにはなんのためらいもございません」

それも、さっき柘榴さんが言っていた気絶しそうになった言葉だった。同じことを十季、お前も言うのか。
「ですが、藍さまは、お守りしなくてはならぬ殿に心を寄せてしまった。そのために、忍びの術も鈍ってしまった。あの場所にいて、デバトンが武甲衆弓組の手に掛かったことに気づかなかったことも、弓組の存在にすら気づかなかったことも、その精神の未熟さが招いたあの結果にございます」

「竪穴式住居近くには、デバトンを射抜いた弓組の矢が落ちておりました。血まみれの。
デバトンは鳩でありながら自ら矢を引き抜いたのでございましょう。そして、この家まで瀕死のカラダで飛んで来て、少吾さまの闇の指令が出されたことを伝えたのでございます。実にあっぱれ。ですが藍さまは
デバトンにも劣ると言うのか?
残酷過ぎるよ十季。
俺にはそんな忍者世界の残酷な生き様などアタマに入って来ないよ
藍さんは
そしたら、藍さんは、ほんとうにもうこの世にはいないの

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