大地丙太郎文庫

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くのいちせぶん 2話 02
 ずっと気になりながら、何処かで否定したかった藍さんの生死のことはもう、諦めなくちゃいけないのかな

涙が
涙があふれてこぼれ落ちる。止めどもなく。湯の中に俺の涙がぴたぴちと音を立てて落ちた。
悲しくて悲しくて
「藍さんっ!」
俺は声を出して嗚咽した。
十季の手が、すっと俺の首に巻きついて来た。もう一方の手も、俺の背中回り込んだ。
十季が身を寄せて来た。
小さな十季が、俺を包み込むように抱きしめて来た。
十季の顔が俺の首筋まで密着した。
乳ももも、密着して来た。
そして、十季の唇が、俺の耳をかすめた。
「ご心中、お察しいたします、殿
そう言って、多分忍法肌さわりなんだろうな俺の溢れ出る哀しみと、やるせなさと、後悔と、それから、それから、もう説明のつかない、つらい感情を、十季はその小さな体で吸い取ってくれている
十季
十季
俺は、今すべてを十季に委ねたかった。
「十季十季
泣きながら俺は十季の名を呼んだ。
十季がまた耳元で囁いた。
「ご安心ください、殿。私ども残りの七くノ一、殿に心を奪われるようなことは決してございませぬゆえ」

なんか涙がぴたっと止まった。
この状況で裸で俺を抱きしめている状況でその言葉はぎゃっぷ?逆にぎゃっぷ?
がたん。
風呂の戸が開く音。どきっとして俺はそっちを見た。
「ぎゃっ!」
俺はまた目を剥いた。
そこには全裸のかあさんじゃなくて、柘榴さんがっ!
十季のこめかみが何故かぴくりとした。
かたり。
後ろ手に戸を閉めた柘榴さんがすすすと近付いたかと思うとぽちゃりと湯殿に入って来た。
ちょっと、この湯殿じゃねえよ、湯船は家庭の0.75坪用のちっちゃいのよ。
本来一人用よ。
そこに三人もっていうよりもっと問題なのは、俺、十季、柘榴さん全部裸っ!
裸でぎゅうぎゅう。
「柘榴さま
多少嫌悪のまじった声で言ったのは十季だった。
「私とて太吾さまをお守りしたい。なにが悪い」
「悪いなどということはございませぬが
「十季、わきまえよ。太吾さまから離れよ」
「聞きませぬ。今、殿には忍法肌さわりが必要
「その術であれば私とて会得しておる、太吾さま」
「え?」
柘榴さんが俺の体に身を寄せて来た。
がう〜。
柘榴さん、十季と違って、結構ボリュームありますよ乳っ!
「私に身をお任せくださいまし」
と、柘榴さん。
「殿、私の肌さわりの方がようございましょう?」
「このような小娘の肌より、この成熟した柘榴の肌をご堪能下さいませ太吾さま」
わーーーーーっ!
わーーーーーっ!
なにこれなにこれ〜?
俺の今はなんなのぉーーーーっ?
とろけるーーーっ!
天国すぎるーーーっ!
爆発するーっ!
我慢出来ない爆発するーっ!
「殿?」
「え?」
甘くも冷静な声を耳元で囁いたのは十季だった
「ご安心下さいませ。私どもが殿にこころを寄せるコトは決してございませぬ故
「あ
「使命にて、お守りいたすのみにございます」
柘榴さんも甘い声で補完ささやき
「あ、はい

爆発はしなかった。

これまで入った風呂で一番ぽかぽかドギマギいろいろアップダウンを体験した俺は今ベッドの中だ。
で、あの俺の左には十季、右には柘榴さんがぴったりと俺に寄り添っているんですけど
人生初の添い寝が両脇を固められての3じゃなくて川の字とわ。
汗。
しかし、このシングルのせまいベッドになにも川の字にならなくても。
俺は天井を見ている。
ちろと左を向くならば、まんじりともせず5センチの距離で俺を見つめている十季。
汗。
慌てて右を向けばこれまたまんじりともせず5センチの距離で俺を見つめている柘榴さん。
「「いつ敵が襲い来るやもしれませぬ」」
なんかふたり同時に言う。
そんな近くで守らなくても
「「片時も油断はなりませぬ故」」
ふたりの手はしっかりと俺の体の上をガードするよう添えられていた。
今、ガードするようにと言ってはみたが、もっとわかりやすく言うとふたりのおんなの子にぎゅうーっと抱きしめられているのであった。
シアワセ過ぎるような、ちっともそうではないようなどっちなの?
ほんとに来るのか?
敵来ないでこのままの感じでいつまでもってのも悪くもないような、悪いような。なんだか考えるコトすら分からなくなって来た。
いつしか俺は深い眠りにつこうとしていた
あまりに衝撃的な一日が終わろうとしていた。
目が覚めたら、いろいろ元通りになってるかも知れない。なってるといいな。
それが一番正直な希望だと、俺は眠る直前に思った。

寝た。

起きた。

「殿、ご無事のお目覚め、なによりにございます」
寝た時と同じ体勢のままの十季が5センチの距離で言った。
「太吾さま、朝餉に致しましょう」
5
センチのところで柘榴さんが言った。

そしてNASAに捕らえられた宇宙人のように十季、柘榴さんに両脇を抱えられて、階下に降り連行される。

食卓についた。つかされた。
今の今までベッドの中に一緒にいたにも関わらず、柘榴さんはあっという間にに朝食を出した。
忍者かっ。

忍者なんだよね
米のご飯と焼き魚、海苔、ひじき質素であるが健康的な健康的ではあるけどうーん、なんか居心地が悪い。
あの、目玉焼きに茄子の漬物添え、豚汁とトースト、日本茶という、わが大萬家ではごく当たり前ながら、どうもテレビ雑誌なんかで入る情報からみるとアンバランスな朝食は?
「あれは私が忍法人変幻にて大萬満子(45)というキャラを演じておりましただけでございます故」
あ、そうなの
忍法人変幻
ま、よくわからないですけど

そんで
俺がこのバランスの良い朝食を戴いておりますその間、すぐ脇の床にかしずいている十季。
い、居心地悪い

あ、そうだ。

俺、殿なんだよな。
そうだよ、殿だったらもっとエラそうにしていいんじゃね?
こんなおどおどすることないんじゃね?
よしっ!

「そ、そのほうらっ!」
俺は目一杯時代劇調で言ってみた。
十季が目を丸くして俺を見た。
柘榴さんも流しの前から目を丸くして俺を見た。
ふふふ、びっくりしたか?
余は殿であるぞ。
「そのほうら、余はやりにくいっ。いつものようにいたせっ」
おお、なんか殿っぽいぞ。
気持ちいいぞ。
俺もやれば出来るんだな殿様。
やっぱり俺は根っから殿様なんだな、えっへん。
えっへん。

ん?
なんか反応薄いな。
なんでふたりとも黙ってんの?
「そのほうら、聞こえた? これまでのように、昨日までの様に、十季は妹のごとく、柘榴さんはかあさんで、何時ものような朝ごはんを出し、風呂もベッドも余をひとりにさせよ」
「太吾さま」
十季が俺の言葉を遮るように言った。
「私どもは殿を敵の攻撃からお守りするのが役目にございますゆえ、そのようなご命令にはお受けできかねます」

あ、そうなの

(つづく)

12くのいちせぶん
2
話「ストップ!くのいちくん!」

その5
「余はっ」
と、ふたたび言ってみる。
「余は学校に行くでおじゃるっ」
ん? おじゃるじゃないか?殿様の語尾ってどう言うんだっけ? 
なんかよくわからん。
とにかく俺は学校に行きたい。
俄然行きたくなって来たぞ。
いつものようにしたいのでおじゃるあ、ござるだ。ござるでいいんだきっと。
十季と柘榴さんが軽く戸惑ったように顔を見合わせた。
俺はズカズカと二階に行き、鞄を持って、十季の目も柘榴さんの目も見ないで外に出た。
何時もの光景だった。
昨日と同じよく晴れた天気だった。
清々しい朝の空気だ。
平和に見える。
いろいろあったが平和に見える。
俺は大萬高校に向かう。
だが
だが、そこには昨日と決定的に違うことがあった。
大萬高校に、今日からは美山藍さんはいないのだ。
それを思い、俺はまためまいがして目をつぶった。つらい。
つらい。
またもや十季に聞いた藍さんのことが頭を巡って来た。
藍さんは俺を守るくノ一だったのだ。そして俺の命を守るために、敵とともに爆死した
いやだ。
このことを考えるのはいやだ。
少し息が荒くなってきた。 それでも足は学校に向いていた。
「おにいちゃん」
十季の声がした。反射的に振り返ると、十季がすっと、腕を絡めて来た。
「途中まで一緒に行こう」
「十季」
十季は大萬中学の制服を着ていた。
あ。
十季。
十季はにっこりと俺を見上げて笑った。昨日までの十季がそこにいた。
あんなことを言いながら、十季は俺の命令を受け入れたのか。
俺はヤケに照れ臭くなった。
十季が一段と可愛いく思えたからだ。
「あれ、顔、赤いよおにいちゃん、妹に惚れんなよ」
「な、なにをっ」
「にひひひひ、妹モノのエロ本好きの変態アニキだからね、危険だ危険だ」
「ち、違うって言ってんのっ!アレは徳永がっ」

昨日と同じ様に十季は、まるで昨日と同じように振舞ってるんだ。
余の命令じゃない、俺の言うコトに従ってくれたんだ。
スナックどろんの前を通る。
また朝のママがいる。
昨日と同じように化粧もすっかり落ちてパーマ髪をバッサバサに無造作に後ろでひっつめて、くわえ煙草でオッパイ丸見えの胸がずろーんと開いたシャツというだらしない格好
じゃない。
な、なんかキリリとした目でこっちを見てる。
とろんと眠そうな死んだ目ではなくキリリっ!
髪もストレートだし、キュッと後ろで束ねて清楚。シャツもキチンと上のボタンまで締めて、タイトな紺のスカート、黒のストッキングにヒールで、朝のスナックのママ感ゼロ。った俺の方がどうかしている。
む、むしろ出来る女、案外丸顔だけど、まるで、大企業の重役についている有能な美人秘書っていう感じだ。一瞬でも、ああ、またスナックどろんのママがいると思った俺の方がどうかしている。
そのママ(感ゼロの美人秘書風の女)が、しゅっとひざまずき俺に頭を下げた。
なにっ?
ママ(感ゼロの美人秘書風の女)がキリッと顔を上げ、透き通った凛とした声で言った。
「殿、これまでのご無礼、お許しくださいませ」
ええええーーーーーーーーっ!
マ、ママもぉーーーーーーーーっ!?
ママもママもママもく、くく、くノ一っ?
と、息を飲んだ時、十季が俺の腕からするりと抜けて素早くママ(感ゼロの美人秘書風の女)の脇に行き、スッと短く耳打ちをした。
ママ(感ゼロの美人秘書風の女)は十季の耳打ちにフと小さく反応し、やや眉間に小皺を寄せ、十季を見た。
十季がまた素早く俺の腕の中に戻って来た。
ん?と俺は十季を見たその瞬間、あの下品なしゃがれ声が聞こえた。
ママ(感ゼロの美人秘書風の女)は、やや不機嫌そうに戸惑う表情を見せた後、
「なんだいなんだい今日も朝から熱いな粕タロー」
と、てんでだらしのない口調に戻った。
はあ?
改めて見ると、この一瞬であのきりりとした出来る感じの美人秘書は、化粧もすっかり落ちてパーマ髪をバッサバサに無造作に後ろでひっつめて、くわえ煙草のオッパイ丸見えのスナックどろんのママになってガニ股で立っていた。
あ、十季
十季がいま一瞬に「殿の前ではいつも通り振るまれよ。殿はそれがお望みである」とか耳打ちしたに違いない。
そ、それにしてもスナックどろんのママも七くノ一のひとりなんすか
んじゃ、あのとうさんが酔っ払ってママに担がれて帰って来たことも、その度にかあさんが不機嫌だったかとも、俺の前で普通の家庭を演じていたというコトだったのか。
くノ一て。忍者て。
「妹ですよ〜」
十季がママに言った。
「ね」
そう言って俺を見た。
え?な、なんだよ、俺にどうしろというの?と、と思いながらも俺はママに、
「い、妹ですよお〜」
と、返していた。
なんで俺がもう正体もばれたママに向かって芝居を打たなくてはならんのだ。余の命令が余に跳ね返って来たでおじゃるあ、ござる。
「おめえにそんな可愛い妹がいるはずねえだろ〜ばーか」
と、ぞろんと垂れたノーブラオッパイを揺らしてママはガハハと笑った。
は、はは
俺は一世一代の苦笑いをした。
なんで俺のコトを守るくノ一のひとりにこんなコト言われなくちゃ行けないんだよ。
また余の命が余に跳ね返って来たことにダメージを受けている俺であった。
いやしかし、あのママも忍法老け化粧?案外19才とかだったりして〜。
「山吹は18でございます」
俺のココロを読んだ十季がすかさず囁いた。
じゅーはちい〜っ⁉︎
そんで山吹さんて言うんだ
山吹さん、18才。
ちょっぴりさっきのきりり山吹さんにもう一度会いたい気持ち
なんてちょっとでれっとしてたら、痛っ!
え?
十季が絡めた腕をきゅっとひねって来た。
な、なに?
十季を見たが、ヤツはフイと目をそらした。
なに? え? なに?
今の、ちょっと山吹さんに向けたデレに怒った?
え?
なんで?

(つづく)

14くのいちせぶん
2
話「ストップ!くのいちくん!」

その7
「じゃあね、お兄ちゃん」
明るく言って十季は昨日と同じに背を向けて大萬中学に向かって行った。俺は十季の後ろ姿を見送った。俺を守る七くノ一の鴇である十季は、普通に中学に行って授業に出るのだろうか?
「十季ーっ」
思わず俺は声をかけた。
十季が振り返って、まるで妹の様ににっかーっと笑って手を振り、再び中学の方へ駆けて行った。
昨日はこの別れ際にドンとヤツに蹴られたっけ。そして蹴られた先には、藍さんがいた。
そう、藍さんが、いたのだ。
「十季ちゃんて言うのかあ〜」
と、気持ちの悪い声でため息交じりにつぶやいたのは徳永英康であった。
ぎょっ!
いつの間にか俺の横に立ってやがる。
に、忍者かっ!?
ん?
ドキッとして俺は、この変態クラスメートというか唯一クラスでは交流のあると言うより何故か他に友達はいないのでこいつも友達とは思いたくないのだが、それでも唯一の言葉をかわしたり妹ものあれこれを貸してくれたりするこのオトコを見た。
いや、その前に英康の方から、とろけるように俺にしな垂れて来た。
「んふ〜、十季ちゃんて言うのかあ〜」
きっもち悪ぅ〜。うっとおしい、くっつくな。
「ねえ、おにいさん〜」
やかましいっ!
「オレ今日、遊びに行ってい〜い?ときちゃん、理想の妹キャラだよお〜、おにいさんさえ良ければ、オレ、ときちゃんとお付き合いしたいですぅ〜」
ですぅ〜じゃねえよ馬鹿野郎っ!
しかもなっ!
「十季は俺の妹じゃねえんだよっ!」
「あ?」
う、し、しまった、声出して言っちまったっ!
「妹だよ、妹だ、十季は俺の妹だよっ」
知ってるよ」
英康はきょとんとしたまま言って、
「でないとお前は俺のおにいさんにはならんからな」
と、続けた。
それはまた別の問題だっ。
などと、ツッコミつつ、俺にはもしやという思いが湧いていた
いや、しかしまさかそんなコトはない。
だが、ここまで俺の周囲すべからくくノ一だったりその関係者だったりしている今、目の前にいるこやつのことも疑うざるを得ない。
英康もくノ一いやいや、こいつはどこからどう見てもただのサイテーのゲス男だと思うよ。
しかし、さっきのスナックどろんのママのあり得ない変貌を見た後でもある。
このゲス男が実は可愛いらしいくノ一ちゃんなんでこともあ、あり得ねえっ!あり得ねえけど、あり得るっ!
よ、よし、試しに
「控えおろうっ!」
俺は思い切り殿用語を放った。
「余をなんだと心得る。殿である。その方、殿の御前である。無礼であろう。ズが、頭が高いっ!」
聞いたことのある限りの時代劇っぽい感じで、俺は殿を発動してみた。恐れいるのか英康っ。
英康は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で俺を見ていたが。
「おまえってそーゆー厨二?」
がっ。
こいつ案外ふつうだ。
ち、違うやつもいるのか、この話の登場人物でもくノ一関係じゃないやつもいるのかっ!
英康はそんなうろたえる俺をなおも不思議そうに見ていた。
その時
背後から、聞き慣れたあの憧れの声が聞こえた。
「大萬くん、お早う」
えっ?
心臓が飛び出るかと思ったっ!
一瞬息が止まった。
だってこの声は。
そんなバカな。いや、そうなのか?そうなんだ。
だってこの声は
俺の目の前が急にバラ色に染まって行った。
そうなんだ。やっぱりそうなんだ。なんにもなかったんだっ。
だって。
だってこの声はっ!
そして
そして、俺は、その声の方へ振り返った。
藍さん
藍さんがいた
そこに、キラキラと屈託のない笑みを浮かべた、美山藍さんがいた。

(つづく)

15くのいちせぶん
2
話「ストップ!くのいちくん!」

その8
授業中、藍さんは何度も何度も俺を振り返った。
その度に俺も藍さんを見る。すると藍さんは嬉しそうに小さく手を振ってにっこりと微笑むのだ。
ああ可愛い〜。
それがいつもより多かった。なんか俺、もう、すっかりしあわせ〜♡

廊下を、おっぱいたて揺れ体育教師、群馬葵が通りがかった。
葵は少し開いた粕太郎の教室の扉から何気なく中を覗き青ざめた。
そこにはあの美山藍の姿があったからだった。

「美山」
休憩時間、渡り廊下を歩く美山藍の背後から、群馬葵が声をかけた。
藍がぴくりと反応して立ち止まった。
そして、ゆっくりと振り返った藍のその顔は不敵な笑みに歪んでいた。
「貴様、何者だ?」
葵が重ねて言った。
藍の目がそのとたんに鋭くなった。
対応するように葵が身構えた。

放課後、俺は昨日来たばかりの大萬公園の外れの弓道場の隣にある竪穴式住居に来ていた
「え?」
芋玉県指定史跡である竪穴式住居は、あれ?やっぱり燃えてしまっていた。
「燃えてる」
明らかに、昨日燃えたのだ。
藍さんと武甲衆の戦いの最中に燃えてしまって、そのままなのだ。
俺はまた頭がコンランしてきた。
やっぱり昨日はあったのだ。あの戦いはあったのだ。
でもそうなると、今朝の藍さんの言葉の説明がつかなくなる。
俺はまた夢を見ているような、まだ飲んだことはないが酒を飲んで幻覚でも見ているような、記憶の有無のありかがわからなくなって来てしまっていた。
「大萬くーん」
そんな俺のコンランをよそにあの明るい藍さんが手を振りながらこちらにやって来ていた。
俺は
その迷いのない藍さんの笑顔を見て、考えを巡らせることをストップした。いい。どーでもいいよ史跡のひとつやふたつ。(いけませんよ☆作者注)
俺は藍さんの笑顔に吸い込まれるように同じく手を振りながら藍さんに駆け寄っていた。
「藍さーん」
藍さんが俺の両手を取って迎え入れてくれた。
「ごめん大萬くん、待たせちゃった?」
「いや全然、俺も今来たばっかりだよ」
「ホント?良かった」
藍さんはまたにっこりと笑った。
ああ、可愛いよお〜。
「大萬くん、話したいことってなに?」
あ。
そうなんだ。読者のみなさんはもう俺が書いた手紙の内容など忘れてると思うけど(なにしろその文面を書いたのは半年前だもんね。2014夏の頃だもんね)、俺は改めてこの竪穴式住居あ、なくなってるけどの前で藍さんに気持ちを伝えようと思い、ラビリンレターには『さて、この度私、大萬粕太郎、美山藍さまに是非ともお伝えいたしたき儀が御座います。』と書きしためてものであった。
そうだ、そのお伝え致したき儀、今こそ言うんだ。
「あ、藍さん」
「はいっ」
待ってる。
藍さんは俺の言葉を待っている。この期待に満ちた目がそれを証明している。
「俺、藍さんが」
「はいっ」
「好きですっ」
言った。
「はい、私もです」
わ、即答で良き返事が返って来たじゃないかーっ。これはこれで予想外っ。
「俺と付き合って下さい、しあわせにしますっ」
俺も思わずたたみこむ様に言ってしまっていた。勢いだ。もうこの際勢いだよ粕太郎。いいぞいいぞ。
「はい、よろしくお願いします、きゃっ」
藍さんは一気にそう言って照れを隠す様に俺に抱きついて来た。
わっ!
わわわのわっ!
いきなりの好展開っ!
人生初の告白で、引っかかりなしの好展開に俺は浮いたっ!浮きまくった。
今は今朝の英康が俺の首にぶら下がっているのと訳が違う。
俺は今、藍さんとともに浮いているのだ。
俺も、俺も藍さんの背中を抱きしめた。
うわ、藍さんてこんなにきゅっとしてるんだ。わーいわーい意外だなあ〜。可愛い〜。
藍さんもさらにきゅーっと力を込めて抱きついて来た。
う、う、嬉しいーっ!
ちょっと苦しいけど、もういい、この際絞め殺されてもいい。藍さんなんだもん。
嬉しいーっ!
藍さんと相思相愛〜っ!
「大萬くん
俺の胸に顔をうずめたまま、藍さんが甘い囁くような声で言った。はじめて何時もの藍さんの様な控えめな言い方だった。
「キスしてください」
ええーーーーーっ!
き、来たっ!
その時は思ったよりも早く来たっ!
俺としては段階を踏んで、何度かデートにお誘いして、親睦をだいぶ深めてからその、今年のクリスマスイブあたりにうまくそこまで持っていければ御の字くらいに思っていただけに予想外のスピーディな展開であった!
って。
そんなコトを考えているうちに目の前の藍さんは既にキスの体制になってる。目をつむって俺にそのぽっちゃりとした唇を差し出していた。
ふわーっ
こりゃもう避けては通れないですよ。
いや、でも、藍さん、お、俺、コレが人生初のキス、つまりファーストキスになるわけで
とか。
考えてないで行動せねば。
藍さんをこのままいつまでも待たせておくわけにはいかないもん。
あ、藍さんっ!
い、戴きます。いただきまーす。
俺も目をつむって藍さんに唇を近づけて行った。
その時
俺は、舞い上がっていて、藍さんの右手に握られた小刀が、俺の首すじ目掛けて振り下ろされているコトに気がつかなかったのだ。

(つづくのだ)

16くのいちせぶん
2
話「ストップ!くのいちくん!」

その9
その刃が俺の首の皮一枚手前で止まった。
藍さんが突き立てた小刀を素手で握り止めたのは、たてゆれ先生こと群馬葵だった。
だが、まだ俺にはなにが起こったのかはわかっていなかった。
俺は藍さんとの人生初のチューに向かって頭の中がいっぱいであったのだから。
見れば俺の目の前には藍さんに並んで傷だらけの群馬葵の顔があった。
傷だらけの群馬葵先生の顔がっ?
髪の毛も乱れあちこち千切れ、血だらけだった。目を向き歯を食いしばっていた。
「くうー」と苦しそうな息を吐き、何かに耐えていた。
俺の首の前に小刀が突き立っていて、その刃を群馬葵が素手で握っていた。その手のひらから血が流れ出していた。
小刀を突き立てていたのは藍さんだった。
藍さんがっ?
藍さんは自分の行動を群馬葵に阻止され、鬼のように険しい目で群馬葵を睨んだ。
「三峰がっ、まだ息がありおったかっ」
吐き出すように藍さんが言った。
ありおったか?
藍さん、俺を俺を殺そうとしたのか?
この状況ではそうとしか思えなかった?
そして群馬葵が
藍さんが憎しみを込めたように群馬葵の脇腹を蹴った。
群馬葵は蹴られるがまま吹っ飛び地面に転がった。手のひらから血が吹き出た。
転がった群馬葵は、濃い青、群青の忍び装束であった。
そして、その群青装束もあちこち千切れそこから覗く肌もまた傷だらけで血が滲み、痛々しかった。
「せ、先生
そう言いながら、俺は群馬葵が俺を守る秩父忍者、三峰衆の七くノ一のうちのひとりなのだと察していた。

果たして、群馬葵は、粕太郎こと萬粕太吾を守る秩父忍者、三峰衆の七くノ一のうちのひとり、群青であった。
話はやや時間を遡り、葵が渡り廊下で美山藍に声をかけたところに戻る。

「美山」
美山藍がぴくりと反応して立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
「貴様、何者だ?」
群馬葵がここにいる美山藍を疑うには充分な理由があったが、それはまた後々の解説になる。
藍は答えず不敵に笑った。
「武甲衆か
群馬葵こと群青が確信し、そう言ったその瞬間、美山藍の目が戦闘の色に変わった。
群青が咄嗟に身構えた。それより早く藍の体低く群青に突進した。すれ違いに藍の忍者刀が群青の腹を狙い真横に走った。群青は体を刃の動きに合わせて回転させギリギリ避けた。
藍が手首を返して二太刀めを走らせた。縦に揺れた群青の乳が刃の餌食になって飛び散った。だが乳から血痕は飛び散らなかった。群青のたて揺れの乳は群馬葵というキャラ用の作り物であった。道理で揺れすぎであった。
作り物の乳をなくした群青はむしろ身軽な薄い胸板でとんぼ返りに後方に跳ねながら服を引きちぎった。その下は群青色の忍装束であった。着地と同時に忍者刀を抜いた群青は片足でとんと床を蹴り藍に飛び込んで行った。振り上げられる群青の刃をぬるりとかわした藍の三太刀めが今度は確実に群青の脇腹を凪った。群青は痛みを感じる前に体を返した。藍は渡り廊下の柱を駆け上り屋根に伝い上がって行った。
群青がすぐさま追ったが、群青が屋根に上がった時は既に藍は渡り廊下から続く校舎の壁を垂直に駆け上がり屋上へ向かっていた。群青もまた垂直の壁を駆け上がった。屋上の縁を蹴った時に群青目掛けて無数の手裏剣が飛んできた。群青はそのまま飛躍して宙で体を翻し手裏剣を避けた。
同じ方向から襲い来た影を群青は藍と見て刃を構えた。構わず突進して来る藍に群青は袈裟懸けに斬りおろした。藍がまっぷたつに裂けたと、思いきやそれは屋上に放置されていた廃材の太い錆だらけの鉄のパイプであった。「変り身の術っ」と群青が気づいた時には既に背後から藍が迫っていた。

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