大地丙太郎文庫

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くのいちせぶん 2話 03
 背中から尽きたてられた刃に声もなく仰け反った群青はそのまま落下し、ペントハウスの壁とその脇にあった給水タンクの狭い隙間にぐしゃりと挟まりこんだ。藍がタンクの上に着地した。わずか15cmほどのその壁とタンクの隙間の奥深くに群青の体は逆さまに挟まっているのが見えた。

藍はその隙間目掛けて忍者刀を突き立てた。が、群青の体に刃が到達しなかった。「ちっ」と舌打ちして藍は黒い丸薬状の火薬を取り出したが、その使用をためらった。おそらくここで群青にとどめを刺すために爆薬を使ったら、給水タンクまで傷つけ校舎が水浸しになり大事になってしまうだろう。
今は太吾暗殺という指令で動いている身の藍は、群青のとどめを断念せざるを得なかった。授業開始のチャイムがなり、群青に向けていた鬼のような形相を解除した。藍は再び教室に戻り、粕太郎と穏やかで明るい笑顔を作りうわべのラブコンタクトを交わし、放課後を待ったのであった。

その屋上での鬼の形相を戻した藍が、いま、蹴り転がした群青に向かっていた。
太吾暗殺に使うはずだった小刀を振り捨てた藍が、腰の後ろから忍者刀を抜きはなった。
「息の根を止めておくべきだったな」
俺は藍さんの豹変に尻餅をついてぶるぶると震えて見ているだけだった。
たった今まで、あんなに甘い声で俺を誘っていた藍さんが、今、血まみれの群馬葵に刃を向けていた。
藍さんはなんのためらいもなく、群馬葵先生の薄い胸に刀を突き刺した。
「ぬぐっ」
と、身をそらして群馬葵が、うめき声を漏らしてそのままぐったりとした。
先生っ!
だが、藍さんが突き刺したのは錆にまみれた鉄のパイプであった。
「変り身かっ」
いつのまにか藍さんの背後に回っていた群馬葵が背中から藍さんに刀を突いた。咄嗟に避けた藍さんが体を回転させながらまた葵先生を足蹴にした。葵先生が転がった。葵先生は血まみれのままうずくまった。
藍さんがそんな葵先生を容赦なく何度も足蹴にした。ぼろ雑巾のようになった葵先生が鬼のような藍さんに徹底的に痛めつけられ苦しそうなうめき声をあげた。
俺は、ただその地獄のような光景を見ているだけだった。
見たくもないのに。
見たくもないのに、涙を溢れさせながら俺は見ていた。
藍さんが、どうしてこんな残忍なコトをしているのだ。俺が憧れていた藍さんは、今、俺の目の前にいる人なのだろうか?
そして、おそらく俺を守るために俺の周囲に配置されたくノ一であろう、群馬葵先生が、今、藍さんに徹底的になぶられている。
「や
やめろーっ!と、叫びたくて声をあげたつもりなのに、俺は恐怖で声が出なかった。
藍さんが、再びつり上がった目のまま、葵先生に刃を突き立てようと振り上げた。
俺は、半分腰を抜かした状態だというのに、そんな藍さんに突進していた。しなくちゃいけないと体が動いていたのだ。藍さん、それはいけないっ!やめろっ!人を殺(あや)めてはいけないっ!
必死だった。
だが俺はこんな状況になった時にどうすればいいのか、そんな訓練さえできてなかった。アタマの中では突進していたのだが、実際には腰が抜けたままだった。
藍さんっ!
群馬先生っ!
しゅるっ!
ざくっ!
とどめを刺さんとばかり大きく刀を振り上げた藍さんの右手首に手裏剣が刺さった。
「う」
小さく漏らして藍さんが右手首をかばいつつよろけた。
手裏剣の飛んできた方向から鴇色の影が藍さんに突進して来た。
十季だっ!
藍さんが手首に刺さった手裏剣を投げ捨てた。藍さんに突進する十季の手から矢継ぎ早に手裏剣が放たれた。藍さんがそれをすべて刀で弾いた。その間に十季が藍さんとの間合いを詰めていた。十季の忍者刀が藍さんに走った。藍さんは体ごと交わしながら自分の刀で受けた。
右で受けたその次の瞬間に十季の刃が返り左から襲う。藍さんが受け、同時に引いた刃は今度は藍さんを突き、上から下から左へと十季の刀は目にも止まらぬ速さで藍さんを攻撃した。藍さんはソレをすべて忍者刀で跳ね返した。
刀の動きを最小限に抑えないと十季の刃は少しの隙にでも藍さんに最大ダメージを与えるだろう。十季の太刀は十季の体の回転とともに繰り出された。回転の勢いに乗りスピードが増していった。藍さんが十季に押されて2メートル後すさった。十季は藍さんを群馬葵先生から引き離していた。
十季の攻撃をかわしながらも藍さんは防御から攻めに転じる機会を狙って何度か打って出るが十季の身体裁きは圧倒的に速かった。十季の体の回転に足の回転が加わり、何度となく藍さんが十季の蹴りの攻撃を受けた。十季は両の足を交互に藍さんに繰り出した。
十季は刀と両足、左手の熊手のような武器(手甲鉤って言うらしい)を含めて四肢全てを駆使した。一方的に十季の攻撃を受けていた藍さんも十季に同調するように回転を始めた。それにより十季の攻撃からのダメージを弱めているようだった。
十季が攻め藍さんが受ける。藍さんが突く。十季がいやもうあとは俺の動体視力では解説無理の域。藍さんの裁きはダンスのように華麗で十季は新体操の選手の様にしなやかであった。今その目の前のふたりの死闘がなにか芸術的なコラボレーションに見えて俺は状況も忘れて見とれてしまった。
美しかった美しいよ藍さんも、十季も
あまりの光景に一周してそんな勘違いをしていた俺が目を覚ましたのは、藍さんが十季の突きの攻撃をかわしその腕の中に飛び込んだ時だった。
藍さんの左手に持った手裏剣より少し大きめの武器が(くないって言うらしい)内側から十季の腕を斬り上げた。十季の右腕から血が吹き散った。
「☆っ」
十季の口から声にならない音がかすかに漏れた。
「十季っ!」
十季が斬られたっ!
十季がっ!
妹がっ!
俺は思わず飛び出していた。十季に向かって。よろける十季を俺は受け止めた。抱き寄せた。妹を守りたかった。藍さんに妹は殺させない。
十季は一瞬俺に身を委ねるかと思ったが、すぐに態勢を戻し、俺を押し戻し、藍さんに向かった。俺はよろけて地面に尻餅を付いた。
俺など引っ込んでろという十季の意思を感じた。
俺は所詮、守られる立場にいる非力な大萬粕太郎こと萬粕太悟なのか。十季のおにいちゃんなのに
藍さんに向かった十季はしかし藍さんの力いっぱいの表回し蹴りに弾き飛ばされて地面に転がった。
藍さんのこの力に任せた攻撃はさっきまでの美しいふたりの攻防からがらりと変わっていた。転がった十季を藍さんが徹底的に蹴り、踏みつけ痛めつけた。何度も十季に刃を突き立てた。十季は転がりながら蹴りは全て受けつつも刃の攻撃だけは紙一枚にかわしていた。
藍さんの凶暴な蹴りに小さな十季の体が放られ、大萬公園の太い木の幹に激突した。同時に俺を振り返った藍さんが俺に向かって来た。
まるで非防備でいた俺に藍さんの刀が真一文字に迫って来た。
俺は死ぬのだと思った。
もう、絶対に回避出来ないと思った。
グサリと藍さんの刀が俺の腹に突き刺さった。
気が遠くなる気がする中で俺は目を閉じていた。
藍さんが、俺を刺したのだ。藍さんが俺を
ん?
刀が腹を刺している感覚と別の感触がすると思い目を開けた。
十季がいた。
俺をかばい、抱きしめるようにして十季がいた。
藍さんの剣が刺さったのは十季の体だった。一瞬早く俺に抱きついた十季だった。
だが痛みが走った。俺の腹に。
刃は十季の背中から腹を貫通し、俺にまで到達していた。
俺の腹から大量の血が流れ出ていた。
やられた。
俺は藍さんにやられた。
俺は俺は死んぢゃうんだ。ああああああ十季が身をもって守ってくれたのに、残念ながら、ダメだった俺は死ぬ
涙が涙が流れ出た。腹から流れる生温かい血と目から溢れる冷たい涙と、俺の体の中から水分がどんどん抜けて行った
いや?
いや、まて
違う。
この血は俺のじゃない。
俺は冷静に刃先を見た。藍さんの剣は、十季を貫通した後、俺の脇腹をややかすったのみでほとんど外れていた。
それは俺の血ではなく十季のものだった。俺の腹に触れたのはほんのわずか。カッターの刃がかすったくらいだ。それでも俺には相当な痛みだったのだが。
十季が藍さんの刃を受けた時に貫通した刃が俺に触れないように身体をずらしたのだ。俺を守って。
十季。俺に回した腕から力が抜けて行くのがわかった。
十季の目が虚ろになりゆっくりと崩れて行った。
最初はそれを、俺は見ているだけだった。
「十季」
十季は答える言葉もなかった。
十季はずるずると崩れて行った。
十季、十季ーっ!
お前まで、お前まで俺のために命を落とす気かっ!
「ちっ」
と舌打ちして藍さんが刀を引き抜いた。
支えがなくなって一気に崩れる十季を俺は抱きとめた。
その十季を藍さんが思い切り足で蹴払った。十季が俺の腕の中にほとんどとどまらないうちに吹っ飛び地面に転がった。
無防備になった俺に再び藍さんの刃が襲い来た。
やっぱり俺は死ぬのか。
だが、その藍さんの体に無数の手裏剣が襲った。
「ぎゃっ」
その手裏剣の勢いに藍さんがのけ反って倒れた。
手裏剣が飛んできた方から山吹色の忍び装束が大きくジャンプして来て、俺のすぐ前に着地した。
七くノ一のひとり、山吹さん18才だ。
口元は装束のマスクで隠していたが、あの凛とした目で俺を一瞥した。
俺の無事を確認すると、山吹さんは転がった藍さんに向かった。山吹さんが藍さんをめった蹴りした。マスクでそのきりりとした冷静な目しか見えないだけにその行為がヤケに残虐に見えて、俺は思わず尻から崩れた。
その俺を背後から柘榴さんが支えた。
「太吾さま」
短く柘榴さんが言った。
助かった。そう思った。柘榴さんの声が、もう懐かしく、そして安心を呼んだ。
山吹さんが転がった藍さんに刀を突き立てた。
「!」
山吹さんはためらいなく藍さんにとどめを刺す積りでいた。
「待ってっ!」
自分でもびっくりした。
体が自然に藍さんにダッシュしていた。
俺は藍さんに覆いかぶさった。
「待って、殺さないでっ!」
勝手にそう叫んでた。夢中で藍さんを守って抱きしめた。
刀を振り上げていた山吹さんがその手を止めた、が。
「こやつは藍ではありません」

(つづく)



17くのいちせぶん
2
話「ストップ!くのいちくん!」

その10 2話最終章

そう冷ややかに言った。
「え?」
「太吾さま」
柘榴さんが俺を軽く掬い上げるようにして藍さんから引き離した。同時に山吹さんが藍さんの胸ぐらを乱暴に掴み、着ていた制服のブラウスを引きちぎった。
「あっ」
声を上げたのは俺だ。

藍さんの上半身がむき出しになった。山吹さんはさらにためらいなくブラジャーも引きちぎった。
「きゃっ」
と藍さんが言って両の腕で胸を隠した。
が、さらに山吹さんは容赦なくその腕をひねり上げた。
藍さんの胸が露わになった。藍さんの平たく薄い胸が。
俺はとっさに目をそらした。
って、え?
「殿」
山吹さんが言った。ご覧ください、と言う意思表示だった。

それでもまともに目の前の藍さんのあられもない姿を見るのは気が引けたそこにいる藍さんは、確かに
確かに
男だった。
山吹さんが、藍さん藍くん? いや、取り敢えずまだ藍さんで行きますが、藍さんの腹を力まかせに踏みつけた。
「うぐっ」
と、唸って藍さんが、地面に倒れ込んだ。
山吹さんが、クールな目を俺に向けた。
「藍は死にました。この者は藍に化け、殿の命を狙いに来た武甲衆の忍者です」
そう言って藍さんに刀を立てた。
「やめてっ」
俺は叫んでいた。
山吹さんの手が再び止まった。
俺は柘榴さんの手を振りほどき再び藍さんを覆いかばった。
「頼む、やめてくれ。この人が藍さんでなくても、俺には藍さんにしか見えない。せっかく生きていた藍さんなんだ。もう一度死なせるなんて、出来ない」
「殿、おどき下さい。こやつの息の根を止めるコトが私の使命」
山吹さんは怖いくらいに非情に言った。
涙が溢れ出て来た。どうしようもなく。
俺の涙が、藍さんの薄い胸の上にこぼれ落ちた。
俺は動かなかった。
「殿っ」
どけっと責めるような強い口調で山吹さんの声が俺の耳を突き刺した。
だが俺は動かなかった。動かないよ。動くものか。藍さんを、俺は守りたいんだ。今度は俺がっ。
「とののおっしゃるとおりにしてくださいませ山吹さま
かたわらの地に横たえ身動きもしないままだった十季が言った。俺は十季を見た。十季の顔は見えなかった。俺からは後ろ向きの体であった。死んでしまったかとも思っていたので嬉しくなった。言葉は発したが十季は少しも動かないままだった。血はもう止まっているように見えた。
山吹さんが、小さくちっと舌打ちをして十季を睨んだが、やがてパチンと音を出して剣を収めた。
「知らぬぞ」
山吹さんはそう言ってから、
「いや、俺も刃を収めたからには覚悟はしていよう」
と付け加えた。
山吹さんが、藍さんの腹から一旦足をどけ、もう一度ずがっと蹴飛ばし、さらにもう一度踏みつけた。
「がっ」「ぐっ」
と、藍さんがうめいた。俺はその度に藍さんをかばって抱きしめた。
なんてとても思えない柔らかな体だった。
山吹さんは不満そうに背をむけた。
「二度と殿の前に顔を出すでない」
そう言ったのは柘榴さんだった。
その声を聞いて、ぼろぼろの藍さんが、静かに俺を払いのけた。
俺は、離れるしかなかった。
藍さんがよろよろと立ち上がった。
俺たちに背を向けたままのろのろと歩き去りはじめた。
かに見えたが、さっき山吹さんに蹴られた時に放り出され転がっていた藍さんの忍者刀の近くに来た時に、藍さんがふと止まり、その刀を素早く広い刃を自分の首に当てた。
はっ!
っと思ったその時に柘榴さんの蹴りが藍さんの手首に当たり、藍さんは忍者刀を飛ばした。
「あっ」
蹴られた手首を反対の手でかばい、無念の顔を藍さんは柘榴さんに向けた。
「太吾様のお気持ちがわからぬか、去(い)ね。生きて消え失せろ」
柘榴さんが藍さんに浴びせるように言った。
藍さんが、また、のろのろと、歩き出した。
今度こそ、藍さんは、俺たちのいや、俺の前から、去って行ったのだった。

2 おわり(第3話につづく)

| 大地丙太郎 | くのいちせぶん | 21:21 | comments(0) | - |
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