大地丙太郎文庫

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踊る!柳生十兵衛 08
街道の少々見晴らしのよい高台付近であります。
大所帯の柳生十兵衛一行が休んでおります。
茶屋のおばん(29)が持たせてくれました塩むすびなどを猪吉一家が皆に配って食べたりなどして、これはもう和やかハイキングの模様。
十兵衛もその塩むすびを食べております。そこに、やはり塩むすびをば持ってやって来たのは美影さん。
美『十兵衛さま、横に座っていいですかあ〜?』
十『ん? あ、いいよ』
美『やったっ?』
美影さん、嬉しそうに座り、ぱくりと塩むすびを齧ります。
美『ああ、楽しい』
十『楽しいのか?』
美『楽しいです。念願の十兵衛さまの一番弟子にもなったし…』
十『ははは…そんなんでか?』
と、十兵衛も塩むすびを喰らいます。美影、そんな十兵衛を見つめます。
美『十兵衛さま、なんで柳生を出たんですか?』
十『ん……』
美『十兵衛さまは、柳生家のご嫡男で、いずれは柳生をお継ぎになる方でしたのに…。それに、剣の腕だって、お父上の柳生但馬守様にも引けを取らないと言うもっぱらの評判でいらしたのに…』
十『なんでだろうなあ…』
まるで他人事のように言う十兵衛であります。
十『急にフトね…。それまで何も疑わず、何も考えず、オレはオヤジの言うことをひたすら聞いてきた…外様大名の取りつぶしの口実を工作したり、謀反(むほん)のでっち上げをしたり、オヤジにやれと命じられた事をただやっていた…』
美影、突然話し始めた十兵衛を黙って見ております。
十『だが、ある時な…、フト…、何の前ぶれもなくフトね…疑ってしまったんだ…見つめてしまったんだ、自分と言うものを…』
美『…』
十『そしたらな、まるで自分のやりたい事がそこになくてな…実はそこから先、剣もまるでダメになった…やる気なくなっちゃったの…剣ひとすじだったのにな…一回疑っちゃうと、こりゃダメなもんだよ…』
美影、わからないという顔で十兵衛を見ております。
十『わかんないよな、美影ちゃんにはさ…』
美『はい…よ、よくわかりませんが…あ、でも、なんとなく、わ…わかる気も…』
十『無理すんな…わからなくていいよ…オレのやって来た事は、オレにしかわからない…』
菜々、やや遠巻きに座りながら、十兵衛の話を聞いている。
隣でがさつに握り飯食いながら、そんな菜々にひとりでくだらない旅の武勇伝など語っているさくら。菜々は、もちろん、桜の話は耳に入ってはおりません。
猪吉一家は、ひざまづいて、さくらの話、聞いている。さすがはさくらの子分たち。せめてあんたら聞いて上げて。
時はゆったりと平和に流れているかの様なそんなひとときでありました。

十兵衛、なにとはなしに立ち上がります。
静かに美影の側を離れてゆく。美影ねえさんもいつの間にかさくらの旅の武勇伝に聞き入っていた。
大所帯の連中から離れ、川のほとりまでやってきました柳生十兵衛。
ぼんやりと水の流れを見つめております。
何かを考えているような、いや、考えていないような…。おそらく今、何気に美影に話した自分のコトを、なるほとと自分で噛み締めてでもいたのでしょう。
そこに、かつて十兵衛の刀でありました、三池典太光世を差した菜々がやって来ました。
気づく十兵衛がつと振り向きます。
菜『これ、ホントに重いですね。お侍さんて、いつもにこんなに重いもの持って歩いてるんですね』
十『そりゃまあ、菜々ちゃんには重いだろうよ』
菜『あの、これ…』
菜々、三池典太光世の柄に手をかけ、引っこ抜こうと最大限に手を伸ばす。が、三池典太光世の刀身の大半は鞘の中。菜々ちゃん、絶対的にリーチが足りない。いや、この刀身のリーチを持つ人間なんているのかしら?
菜『これ、どうやったら抜けるようになるんですか?』
十『そんなの抜かなくていいよ』
十兵衛、そう言って笑いますが、菜々は、えっ、えっと声を出してなんとか抜こうとしております。
十兵衛、横目で見ながら苦が笑いであります。
十『気をつけなよ、手ぇ切る……』
菜『イタ…』
言ってるそばから指を切る菜々ちゃん。
十『お、おい、ほら、だから言ったんだっ!』
十兵衛、慌てて菜々に近づきます。
菜『大丈夫です…』
言いながら菜々、十兵衛に指の傷を見せます。うん、確かに、ほんのちょっと切れただけではございます。菜々、傷の指をしゃぶって無邪気な顔で十兵衛ににっこり。
十兵衛、ちょっとそんなお茶目な菜々の顔に戸惑いながら、
十『もうやめとけ…』
と、穏やかに申します。
菜『もっと菜々に剣術を教えて下さい……
十『もう抜くな』
菜『強くなりたいんです』
十『抜かんでいい…』
菜『今度、あんな人たちに襲われたら、私、自分でえいっえいってやっつけたいっ!』
十兵衛、またもやそんな菜々に苦笑いたします。
その苦笑を、ゆっくりと空に向け、仰ぎ、十兵衛、風に吹かれるようにしております。
菜々は、そんな十兵衛を真剣に見つめている。
白い雲がゆっくりと流れている。
ふと、十兵衛、菜々を見たかと思うと、黙って菜々から三池典太光世を取り、自分の腰に差します。
スラッ
と、なんなく抜いて見せる十兵衛でありました。
菜『あ…す、すごい…』
心から感心する菜々であります。あんなに抜けなかった三池典太光世をこんなにすらりと抜くなんて…。
十『ちょっと腰を引くの…』
十兵衛、突如、三池典太光世を抜き身で、菜々に持たせます。
十『オレに向けて構えてみな』
菜『え…はい…』
菜々、正眼に構える。
が、重くて剣が下がってくる。
菜『重い…』
十『まあ、なんてか、てこの利用でね…』
菜『てこ…?』
ここで、美影、さくらがふたりを見つけやって参ります。
十兵衛、なにやらちょちょいと菜々にアドバイスなどしております。すると、おやおや、菜々ちゃんすいっと楽に持てるようになったではございませんか。
さ『ああコラ、ずるい!』
美『なに、ふたりでいんぐりもんぐりしてんですかあ〜っ!』
さ『いんぐりもんぐり?』
十兵衛、そんな美影、さくらを気にしない。
十『菜々ちゃん、オレを憎い敵だと思って打ち込んでみな』
菜『え?』
美・さ『え…』
思わず息を飲む、美影とさくら。
菜々、戸惑っております。
十『大丈夫だからさ…』
ですが、そうは言われても、今やっと刀を持ち上げられたばかりの菜々であります。十兵衛に切っ先を向けたまま、戸惑っている。
十兵衛、険しい顔で菜々をにらみます。
十『オレを本当に憎い敵だと思って』
菜『…』
十『オレを本当に斬るつもりで来いっ!』
菜『!…』
十『憎しみと…恨みを…ありったけ込めるんだ…』
菜『…』
十『必ずオレを斬れ…オレは憎い敵だっ』
菜『はあ…はあ…』
菜々、息が荒くなって来ました。
額に汗がにじんで来ます。
見ている美影、さくらもふたりの気迫と緊張に気圧され動けなくなっている。
十兵衛、険しい目で菜々を睨みます。
菜々、おびえる目で十兵衛を見る。

今ここに、菜々の脳裏を駆け巡る恐ろしい光景を申します。

柳生に襲われる菜々の村。
ことごとく斬られる村人。
母を斬る柳生…十兵衛…。
菜々は、ソレを物陰から目に焼き付けております。
菜『柳生……十兵衛……』

この光景はなんでありましょうか?
菜々の母を斬る柳生十兵衛の姿。
この申し上げはまた後のお話にて…。

菜々、柳生十兵衛への恨みが高まり、憑かれたように十兵衛に斬り込みます。
びしっ…
十兵衛、避けもせず、軽く指先で剣の棟を叩く。
ずざっ!
菜『あ…』
よろける菜々、剣から先に崩れ、地面に膝を突く。
十『あ…』
美・さ『あ…』
十『おお…っと』
十兵衛、慌てて菜々に駆け寄ります。
十『ごめんごめん大丈夫?菜々ちゃん…』
菜々、ぼんやりとした顔を上げ、かすれた声で答えます。
菜『…はい…』
遠巻きにいた美影、さくらも駆けつけます。
十『実は今のは正反対のアドバイスだ』
菜『え?』
十『人を斬ろうと思ったら、いっさいの感情を捨てる…』
菜・美・さ『…』
十『オレは…そうやってきた…感情で人を斬った事はない。感情は要らぬ…物のように斬る…ただそれだけだ…』
思わぬ十兵衛のシリアスな言葉に息を飲む3人娘であります。
美『それが…極意…ですか?』
十『…そんなんじゃないよ…』
十兵衛、立ち上がり、少し思案顔。
十『極意、ならある…。絶対に負けない極意がね…』
さ『あ、あるんじゃねえかよ柳生十兵衛え〜極意〜。どんなのどんなのそれ?』
十『戦わない事だ…』
美影、菜々、さくら目が点……
さ『はあ〜? なんだよそりゃっ! いんちき!』
猪吉子分B吉『いんちきは親分!』
猪『そうオレ、やかましいわっ!』
猪吉一家、いつの間にか近くで見ておりました。すかさずツッコむB吉と、猪吉のボケノリツッコミ。
菜々、ぼう然と…三池典太光世を握って座り込んでおりました。

つづく
| 大地丙太郎 | 踊る!柳生十兵衛 | 09:02 | comments(0) | - |
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