大地丙太郎文庫

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くのいちせぶん3話 02

16

武甲丸は燃えていた。
藍さんの黄土くんがカッと地を蹴った。
燃えている武甲丸のボディにほぼ全裸の藍さんの黄土くんが飛び移った。藍さんの黄土くんが鎖の腰蓑に手をかけジャッと伸ばすと腰蓑の鎖が伸びた。先端の柄のそのまた先端からジャックナイフのように刃が飛び出た。逆の先端には小さい分銅が繋がっていて、アッという瞬間に腰蓑は分銅鎖鎌の形を成した。藍さんの黄土くんはその鎌の先端を武甲丸のななつある肩のひとつの関節に打ち込んだ。ハゲしく火花が散った。電気通ってたんかっ! 電動だったのか武甲丸っ! 藍さんの黄土くんは鎌を何度も同じ関節に打ち込んだ。腕のひとつが砕け弾けた。藍さんの黄土くんはさらにその隣の肩口にも鎌をぶち込んだ。火花が飛び、同じ様に腕はボディから外れた。分銅側の端をぐるぐる回して頭部に当てると頭部の一部が砕けた。そしてまた関節を攻める。炎の中で全身を焦がしながらも藍さんの黄土くんは矢継ぎ早に、そして丹念に武甲丸を解体して行った。つ、つよいぞ藍さん。
武甲丸がぐらりと揺らいだ。
「オ・ウ・ド」
とまた壊れたスピーカーから恨みがましく漏れる鈍い声が聞こえた。
武甲丸の残った腕の、指の先端が胸元にへばりついていた藍さんの黄土くんに向けて襲いかかった。指の先端からジャキーンと鋭い爪が飛び出した。山吹さんたちを傷つけた爪だ。だがそのうちの4つはすでに機能が働かなかった様だ。飛び出した爪は一本のみだった。その爪が藍さんの黄土くんの背中を刺した。爪は貫通して武甲丸の木製の胸板に突き刺さった。藍さんの黄土くんが武甲丸の体に串刺しとなった。大量の血が噴き出した。
武甲丸は、なおも燃えていた。
そして、さらにぐらりと揺らいだ。
ズトーンと巨体の膝が崩れた。
そして上半身が手前に倒れてきた。
倒れ来るその先の地面には俺がいた。そして隣には十季が倒れていた。俺と十季は武甲丸の下敷きになる形であった。
突然俺の肉を掴む手があった。気を失っていたと思っていた十季だった。たまげた。たまごと掴まれたからたまげた。が、そんなのもほんの一瞬のこと。十季はほぼ気絶をしたままの状態で俺を掴んで地を低く蹴った。 
間一髪。
俺は倒れくる武甲丸の隙間を抜けて下敷きをまぬがれた。
どしゃーんと、武甲丸が地面に崩れた。火の粉が飛んだ。
そしてっ!
藍さんっ!
藍さんの黄土くんが、串刺しになったまま武甲丸の下敷きとなった。
武甲丸の爪の餌食になった上に、燃える武甲丸の下敷きになった。
藍さんっ!
俺を、俺を助けるためにその身を投げ出した藍さん。
これが…二回目だよ…。
いや、実際には今は黄土くんだから二回めではないのだが、藍さんの姿であるわけだから俺にとっては二回めだった。
「藍さんっ! 藍さーんっ!」
俺は声を振り絞って叫んだ。
武甲丸はただ燃えていた。
ほぼ気絶状態なのに、無意識で俺を抱えて跳んだ十季が、俺の声に反応するようにゆらりと身を起こした。まるでゾンビのような死んだ虚ろな目で燃える武甲丸に照準を合わせたかと思うと十季は再び地を蹴って低く武甲丸に跳んだ。炎の中に消えたかと思うとすぐに身を翻して戻って来た十季の手の先には鎖分銅が絡まり、さらにその鎖分銅の先には鎖に絡まった全裸の藍さんの黄土くんがあった。十季は俺の前にその藍さんの黄土くんを乱暴に放り出すとまた崩れるように倒れた。
次の瞬間、燃えていた武甲丸がどかんと音を立てて爆発して砕け散った。
派手な爆発ではなく、周囲の住民にも安眠配慮したが如くの爆発であった。炎が同時に散ったが砕けた破片とともに闇に消滅した。
武甲丸は…闇に消えた…。コレが…忍びの刺客ロボの撤退なのか…跡形も残さず消滅するのか。
地面に落ちた焼け焦げも消火器の泡のようなものが立ち上りやがてその跡も消え去った。
静寂がもどった。
ここに残ったものは、ぼろぼろの十季と全裸の藍さんの黄土くんと、俺と…血まみれの柘榴さん、山吹さん、群青さん…ん? いや、この三人は既にそれなりの復活を遂げていた。
それぞれの手にはオロナイン軟膏があった。
やっぱりか…オロナイン。
音もなく三くノ一が俺と十季に駆け寄った。柘榴さんが膝に十季を抱き起こし肌をさっと撫でた。そして手早くオロナインを自分の手に取ると十季の傷だらけの身体に刷り込んだ。
一方、山吹さんと群青さんは俺を抱き起こした。手早くモロ出しのままになっていた俺の股間から、いや、脚の付け根である…あの武甲丸に思い切り引っぱられてもげる寸前までダメージを食らった俺の脚の付け根から、オロナインを塗ってくれた。素早かった。そして表情はゾンビが如く生きてるものの物ではなかった。無表情以上の怖さだった。くノ一たちも限界までダメージを受けているのだ。その上でまだ殿である俺を守ってくれているのであった。

17

俺も限界だった。
何しろ俺は一般人なんだ。例え命を狙われてる殿かも知れないけど、今まで波風立てずひっそり密やかに暮らしてきたどこにでもいるチンケな男子高校生なのだ。
刺客やらロボットやら、ましてや股裂などを経験したことなどなかったし、これからもないと思ってた。
これからもないとか、そんなことすら考えたことなかったよ。引っ張りはホントにきつかった。ホントに一時はもう裂けちゃっていいよとまで思った。そして楽になりたかったくらいだ。そこに妹の十季を…いや、実際には妹じゃないんだけど、ほぼ妹としてやって来た十季をがんがんと打ち付けられたのだ。
身も心もボロボロだ。
だが…。
次第に…。
なんだか心持ちが良くなってきた。
そ、それはそうだ…。
ゾンビのように死んだ表情ではあるが、もともとおっかない山吹さんではあるけど、18才の美女が、そして21才の美女が、ふたりで股間のケアを…ああ、そ、そんなことされたら、そんなことされたら…そ…あ…あれ? な、治った…?
あれ? 痛くない。
あ、これ、忍法肌さわり…お手当…。
ひとの手の温かみ、温もり…とは、これほどまでに傷を、痛みを癒すものなのか…。
ああ、なんだか天国に登って行くような気持ちだあ。
「う…う…」
と、近くで呻く声が聞こえた。
あっ…!
藍さん。
藍さんだ。
藍さんの黄土くんだ。
俺を、俺を救うために命をかけてくれた藍さんが…藍さんの黄土くんだけど、見た目が俺の大好きな藍さんが…傷だらけで…そして全裸で倒れている。
傷だらけで…。全裸で…。
藍さん。
藍さんにもお手当をしなくちゃっ…。
「あ…あの…藍さんにも…」
山吹さんと群青さんにそう言った途端に、無表情だったふたりの目がギッと音を立ててつり上がったのが分かった。そして同時にお手当してくれていた手が止まった。
そして逆にギッと爪が立った。
「あいっ!」
ほんわりと癒されていた足の付け根に強烈な痛みが走った。山吹さんと群青さんの爪が鋭く俺のそこに突き立てられていた。
さらに爪は容赦なく俺の付け根のところに食い込んで来たのだった。
「あ、いいいいいいいいいいいい〜〜〜〜…」
くノ一たちの手は、ある時は優しく暖かいぬくもりであるが、一瞬にして凶器にもなるのか…ということを今、激しく思い知らされているっ!
だが…。
だが、それにもめげずに俺は言葉を続けたのだ。
「藍さ…んに…、も、お、手…当て…を…」
くノ一たちは再び、爪を食い込ませて来た。
「あいいいいいいいい〜〜〜っ!」
相当に気に入らないのだな…藍さんのことを…いや、藍さんじゃないことは俺だってわかってるのだ。だが、ここになけなしの命を投げ出してまで、そして、自分の今までいた武甲衆まで裏切って助けてくれた藍さんを、藍さんの黄土くんを、見殺しにするわけにはいかないんだ。
「オロナイン、藍さんにもオロナインを…」
「こやつは藍ではございませぬ」
「武甲の犬」
「違う」
俺はつい、声を荒げてしまった。
「彼女は、いや、彼…は、あ、やっぱ、藍さん…は…俺の命の恩人だっ!」
ふたりのくノ一の食い込んでいた爪が緩んだ。
今の俺の声に反応したみたいだった。
「オロナインを…オロナインをくれ」
「武甲につけるオロナインはなどございません」
冷たく群青さんが言った。
「武甲は武甲でなんかあんじゃないですか?」
さらに冷たく山吹さんが言った。
くそっ。
肝心な時にちっとも殿の言うことを聞かないくノ一だ。
俺は、ごく自然に藍さんの黄土くんにすり寄った。そして、彼女を抱きしめた。
抱きしめた。
お、男だったけど…、藍さんの肌は柔らかかった…。男だったけど、男だったけどそうだった…。
俺には…俺にはこの人は、大好きな、大好きな、大好きな藍さんにしか思えないんだ。
藍さんの傷だらけの頬を、首筋を、俺は手で撫でた。
愛おしくてなで撫でた。
大丈夫だ。
藍さん、大丈夫だ。
俺が、今度は俺が君を守るから。
大丈夫だ。
俺は藍さんを撫でた。
傷が痛々しい。手で撫でると傷ついた肌を直に感じる。
撫でるんだ。撫でてこの傷を、俺が治すから。
俺は藍さんの薄い胸板や背中も撫でた。
治れ、治れ藍さん。忍法、肌さわりっ!
どがっ…と、俺は蹴り払われて転がった。
俺の体は藍さんから離されて地面に転がった。
え?
なんだ?
転がり果てたところから見ると、俺を蹴り転がしたのは…十季だった。
「十季」
十季も、ギリギリの状態だった。
不安定に立っていた。
髪の毛が前に垂れ下がっていて目の表情は見えない。憔悴しているようだった…が、藍さんの前に膝を落とした。
十季は、懐からオロナイン軟膏を取り出すと、言葉も発しないまま、それを藍さんの体に擦り込んで行った。
十季…。
十季よ…。
十季、ありがとう。
十季が…十季が、藍さんを無表情ではあったが、懸命に手当てをしていた。
他のくノ一のたちは、やはり無感情でそれを見守るようにしていた。
夜のしじまに、不思議なささやく声が聞こえた。
「暗殺ロボット武甲丸が向かった。心して向かい撃て」
ん?
なんだ?
と、思っていると…。
「おっせえよ、若葉」
と、呟く山吹さんの声が聞こえた。

第3話 終わり

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